2月14日はバレンタインデーですね。様々な形で楽しみにしている読者の皆様もおられると思います。では、世界で一番大きな「ハートマーク」は何でしょう?
大空に直径約4kmのハートマーク!航空自衛隊ブルーインパルスが大空に描く世界最大のハートマークです。今日はブルーインパルスについて簡単に説明致します。
誕生は浜松基地
初代はF-86F戦闘機
ブルーインパルスは、昭和35年8月航空自衛隊浜松北基地(平成元年、浜松南基地と統合して現在は浜松基地)第2飛行隊に「空中機動研究班」として発足しました。(浜松基地ホームページ)
航空自衛隊の黎明期、操縦者の訓練は米空軍の協力によってなされておりました。この為、米空軍の「サンダーバーズ」の影響を強く受け、展示飛行課目もその流れを受ける形で現在まで続いております。通常の展示課目以外に東京オリンピック開会式で描いた「五輪マーク」’70大阪万国博覧会で描いた「EXPO’70」などがあります。
F-86F戦闘機の用途廃止に伴い、昭和56年2月入間基地における行事が最後の展示飛行の場となりました。F-86Fブルーインパルス解散後は残った機体と操縦者は第35教育飛行隊に移りF-86Fで訓練をする傍らT-33による学生教育を実施しておりました。
2代目は国産T-2超音速高等練習機
ブルーインパルスは抑止力

T-2超音速高等練習機・撮影 黒澤英介氏
F-86Fの退役を前に、ブルーインパルスの後継機に関する研究が行われました。戦闘機操縦者の訓練についてはF-86Fの後、既に国産初の超音速練習機である「T-2超音速高等練習機」で実施されておりました。しかし、T-2は超音速飛行を可能にするため、様々な工夫がなされる中デメリットとしては抵抗を減らし小さくした主翼により翼面荷重が大きくなり、展示飛行に必要な機動性が欠けてしまうという点でした。もう一つは機動を行うと「誘導抵抗が大きいために速度(エネルギー)が減少してしまう」という事でした。ループ(宙返り)を行うと、500kt(時速約930km)で開始しても終わる時には400kt(時速約750km)程になってしまいました。しかし、高速飛行と大きな機動を中心とした課目構成で4機編隊と2機の単独機の連携により「安全で見栄えのする課目構成」を実施出来る事が確認され、正式にT-2ブルーインパルスの発足が決定されました。「国産の航空機を使用」して「アクロバット飛行チーム」を持つという事は、単に「展示飛行の出来るチームを持っている」という事ではなく、日本が「展示飛行を実施可能な航空機を生産できる技術と操縦者の技能」を保持している事の証しであり、その精強な存在が一つの「抑止力」となるものであります。
T-2への改編と同時にブルーインパルスは所属基地を宮城県松島基地に移し、「第21飛行隊戦技研究班」として学生教育と併せて展示飛行を実施することになりました。昭和57年浜松基地航空祭における事故の教訓から、「編隊長」と「単独機」操縦者は2~4番機の「僚機を経験してから」という規定ができたため、操縦者の平均在籍年数が長くなってしまいました。
ビッグハート
青空がキャンバス

ビッグハート・撮影 黒澤英介氏
T-2は、その大きな旋回半径や特性を活かしてF-86Fの時代には無かった展示課目を生み出していきました。その一つが冒頭の「ビッグハート」です。この課目は2機の単独機が斜め上昇姿勢から左右に分離して215°旋回した後に水平降下飛行に戻し、下方で交差する事により「ハートマーク」を描くものでした。T-2ブルーは「基本戦技を研究する」戦技研究班であり、それぞれの課目に戦法上の意義があるものでした。この課目も編隊の後方に敵戦闘機に追尾された時の防御法であり、一旦、左右に分かれる事により片方を追尾させた後、自由になっている味方が挟み込んで敵を攻撃する戦法です。
北関東をフライトしていると地上に大きな「ハートマーク」が見えますがこれは渡良瀬遊水地の中にある谷中湖です。T-2ブルーインパルスが描いていた「ハートマーク」はこの大きな谷中湖よりも一回り大きく、まさに世界一の大きさでした。
「ビッグハート」を花弁に見立て他の5機で茎と葉を担当し、長さ約15kmの巨大なチューリップを7機で描いたものが「’90大阪花と緑の博覧会」の開会式における展示飛行でした。ホームベースである松島基地上空で訓練を重ねていると、東日本大震災でご尽力された矢本町(現東松島市)の故真壁病院院長から「これがお手本だ。」とチューリップの鉢植えが届きました。また、茎の部分が細いという事で急遽1機を追加したため8機による展示飛行となりました。このため、展示飛行に向けて練成訓練中であった筆者も急遽メンバーに加わり初展示をする事になりました。
大空に絵や文字を書く時は、それぞれの飛行機が出発点における編隊の体形を決め「どのタイミング」で「どの様な動きをするのか」を図に書いて、その案を基にそれぞれの操縦者が研究してから実際の訓練を行います。航空自衛隊40周年記念行事における「40」の文字も同様に行いましたが、最初に書いた図が「上方から見た図」であったため、地上の観客から見た時は「裏返しの文字」となってしまう事がわかりました。ただ作図してきた紙が方眼のトレーシングペーパーであったため、裏返しにしてコピーを取る事により難を逃れました。
現在はT-4中等練習機
展示飛行を任務とした飛行隊
平成7年12月をもってブルーインパルスはT-2からT-4にバトンタッチし、現在はこのT-4中等練習機で展示飛行を続けております。T-4ブルーインパルスはT-2の基本課目を受け継ぎながらも初代飛行隊長である田中光信氏が「創造への挑戦」を掲げて新たな展示飛行課目を生み出してきました。T-2で初めて行われた「ビッグハート」も単に「ハート」を描くばかりでなく、描いたハートの中を天使の矢が射貫く「キューピット」という課目も生まれました。今年も4月以降に各基地の航空祭や全国のイベントで「ブルーインパルスの演技」を観る機会があります。興味のある方は航空自衛隊のホームページに掲載されている予定表を確認して頂き足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
まとめ
・「ビッグハート」は航空自衛隊ブルーインパルスの展示課目である
・ブルーインパルスはF-86F、T-2を経て現在は3代目のT-4で実施されている
参考サイト
◆航空自衛隊浜松基地
◆航空自衛隊