2016年11月9日、アメリカ合衆国第45代大統領に実業家のドナルド・トランプ氏が就任する事が決まりました。
今まで、過激な発言で世論を沸かせてきたトランプ氏ですが、彼が舵をとるアメリカの外交政策はどの様に転換するのでしょうか?
これまでのアメリカ外交史を踏まえながら、トランプ大統領の世界戦略「アメリカ第一主義」と外交の舵取りを読み取っていきます。
アメリカ第一主義とは?
モンロー主義の再来!?

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今回の大統領選挙中、トランプ氏が掲げてきたキーワードとしてアメリカ第一主義(America First)があります。
これは米国民の要望を第一として外国人の要望は二の次とするという考え方で、これまでもメキシコ国境からの移民問題や日韓などの在外米軍が駐屯する国に対して自主的防衛を求めるといった氏の発言にその考え方の一部が露見しています。
そして、ロシアや中国といった対外的な影響力を強めようとしている国に対して関係改善を進めたいという意向を示しており、直接的にアメリカが武力衝突する可能性を最小限にしたいという考えが伺われます。
これらの考え方は一見すると1823年に第5第大統領のジェームズ・モンローが提唱した「モンロー主義」という考え方に似ていると捉えられます。
しかし、モンロー主義は外国の騒乱には干渉しないものの、南北アメリカ大陸に於ける武力紛争には積極的に参加する旨を示しており、スペインとの米西戦争(1898年)などに繋がっていきます。
今回のトランプ氏により「アメリカ第一主義」は不可避の場合を除いて武力的解決を行わず、派兵を最小限にしたいという考えがありますので、モンロー主義とは似て非なるものと捉えることができます。
実は、アメリカの国益を最優先する為に海外で戦争があっても「(他国の争いには)不干渉であるべき」という考えの組織として、アメリカ第一委員会America First Committee (AFC)というトランプ氏が唱える名称と同じ名前の団体が過去に存在していました。
これは共和党の上院議員であるジェラルド・ナイを中心として作られた組織で、1940年から1941年の間、当時ヨーロッパで脅威となっていたナチス・ドイツとイギリスの戦争に介入せず中立政策を取るべきだという組織で、戦争への参加は米国民の利益を阻害するという考えから作られました。
日本の真珠湾攻撃によってアメリカの参戦が決まり組織は解散されましたが、トランプ氏の行う外交政策はこの委員会が目指したものと同じ様な考えに基づいていると考えられます。
トランプ氏はこれまでの発言を翻さない限り、日本などの同盟国に関しても米国民の安全と利益が守られないと考えた場合は「自主防衛」を求めるでしょう。
しかし、逆に言えば同盟国が危険に晒される事で米国の利権が侵害されると考えられる場合は「無視できない問題」となる為、日本や韓国などの在外米軍の完全撤退は可能性が低いと考えられています。
現在武力紛争が起こっている場所には「不干渉であるべき」ですが、安定している地域を自らに害が及ぶほど不安定にして良いという考え方ではないのです。
共和党の外交指針
歴史から読み取れる外交の方針

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一方で、トランプ氏が所属する共和党には伝統的な外交方針があります。
歴史上、第16代大統領のエイブラハム・リンカーンを選出した共和党は保守政党として知られており、外交面でも保守的な性格が見受けられます。
例えば2005年に当時大統領だったジョージ・W・ブッシュは国内経済活動を重視した為に、二酸化炭素排出量を制限する京都議定書を離脱しています。
この点はトランプ氏の「アメリカ第一主義」と一致している方針です。
一方で、防衛にまつわる外交面では積極的な軍事介入を行っているのも特徴的です。
特に湾岸戦争やイラク戦争に代表される中東方面への介入が盛んに行われてきました。
今後も共和党の中東重視は継続すると考えられ、トランプ氏の政策方針とどの様に調整されていくのかが注目されています。
日本に対する外交政策で心配されているのは自動車などの輸出関連です。
共和党はアメリカ国内の事業を守る傾向が強い為、経済的な外交政策は条件がかなり厳しくなるのではと心配されています。
また、共和党は中国とは比較的友好的な関係を築こうとする傾向があります。
しかし防衛面ではブッシュ政権時代より続いている米軍の世界戦略で在日米軍の重要性は変わっておらず、今後も東アジア安全保障の中核としてしばらくは存在し続けると考えられています。
数々の過激な発言で外交問題の心配を招いてきたトランプ氏ですが、大統領就任後どの様に官僚や共和党議員と政策を進めていくのでしょうか?
しっかり見届けていきましょう。
まとめ
◆トランプ氏の提唱する「アメリカ第一主義」は昔からある外交指針
◆共和党の伝統的な中東政策等とトランプ氏の発言は一致していない部分もあり、今後どの様に折衷していくかに注目