ブルーインパルスの展示飛行で効果を上げているのが、スモークの存在です。
このスモークはスピンドルオイル(潤滑油の一種)を排気口付近に噴出する事によって高温の排気ガスの中で燻された(不完全燃焼)状態になりスモークとして見えるようになるものです。
今回は、展示飛行の効果に欠かせないスモークについてまとめてみました。
カラースモーク

カラースモークによるデルタループ:黒澤英介氏提供
1964年の東京オリンピックでは、「青・黄・黒・緑・赤」5色のカラースモークで五輪マークを描きました。
五輪マークを描いた高度は1万フィート(約3000m)でした。
ブルーインパルスが大空にシンボルマークを描く時は、通常この高度を使います。
理由は2つあります。
①ジェット機を使ってマークを描くと、大きな形となり、低い高度では地上から見難いものとなってしまうため。
②特に5千フィート以下では空気の擾乱が大きい事が多く、図形を描いても直ぐに形が崩れてしまうため。これは、ブルーインパルスがループ(宙返り)を行う時にスモークの軌跡を見て頂ければ、上に比べて下方の形の崩れが速い事で理解いただけると思います。
マークに色を付けるカラースモークは、スピンドルオイルに染料を混ぜ発色させます。
東京五輪マークでは、簡単そうに見える黒を作る事が、一番難しかったという事です。
また、高度1万フィート上空にシンボルマークを描いた時、赤系統の色は地上から認識され難く、「大阪花と緑の博覧会」においても展示効果を高めるために様々な研究を行いました。
「染料の比率を大きくすれば色が濃くなる」と考えて飛行実験をしてみると、逆効果でスピンドルオイルの粘度が高くなり吐出量が少なくなってしまうため、逆に色が薄く見えてしまう、という様な試行錯誤の繰り返しでした。
最終的にはフラップを着陸形態にセットして、ユックリとした速度で、なお且つエンジンを高出力状態で飛行する事により最良の結果を残す事が出来ました。
カラースモークはスピンドルオイルと染料を混合して使いますが、混合した後に時間が経つと分離してしまうために作り置きする事が出来ませんでした。
このため展示飛行を行う基地に展開した後、整備員達は休む間もなくカラースモークを作る作業に追われていました。
更にカラースモークを使った後は飛行機のタンクを洗浄するという作業も加わっていました。
思わぬ副産物

AB360℃旋回:黒澤英介氏提供
T-2ブルーインパルスでは離陸時は通常アフターバーナー(出力増加装置)を使用するため、燻されるはずのオイルが完全燃焼してしまう事になりました。このため完全燃焼したスピンドルオイルがオレンジ色の炎となって、逆に展示効果を高める結果になりました。
また、オイルの供給を止めるとアフターバーナーの熱でオイル放出ノズルが溶けてしまうため、アフターバーナー使用時は強制的にスモークが出る構造に改修されました。
編隊離陸では編隊隊形維持のためにエンジン出力を調整しますが、スモークノズルの付いている右エンジンの出力を増減すると、オレンジの炎の長さが変化してしまうため、右エンジンは最大出力のままセットしておき、左エンジンの制御のみで編隊隊形を維持しておりました。
オイルタンク
F-86、T-2、T-4共にスモークオイルを入れておくタンクは機体内部にある燃料タンクの一部をスモークオイル用に改修したものでした。
外装ポッドなどを使用してスモーク発生用の装置を搭載する必要は無いものの、機体搭載燃料が減ってしまうため、航続距離への影響が出てきます。
夏場の高温や高地における展示飛行では、エンジン推力が減少する事によって展示飛行の間、常に普段よりも高出力状態を保持しなければならなく燃料使用量も増えるため、最低保有燃料ギリギリになってしまう事がありました。
またT-2の展示飛行では、オイルタンクからの出口が一カ所であったため、演技後半でスモークの量が減ってきた時に、背面飛行でスモークが途切れ途切れの状態になる事がありました。
T-4ではこれを改修してオイルタンクの上下2カ所に排出口を付けることで改善されました。
まとめ
・展示効果を高めるスモークはスピンドルオイルがエンジンの排気熱によって燻されて出来る
・カラースモークは、スピンドルオイルに染料を混ぜる
・図形を描く時は通常、高度1万フィート(約3000m)付近で行う
・スモークの出方を一定にするため、パイロットは片方のエンジンコントロールだけで隊形保持の操作を行う
参考サイト
◆防仁学:「蒼い衝撃「ブルーインパルス」 ブルーインパルス物語その① F-86F」
◆防仁学:「蒼い衝撃「ブルーインパルス」 ブルーインパルス物語その② 国産超音速練習機T-2」
◆防仁学:「蒼い衝撃「ブルーインパルス」 ブルーインパルス物語その③ T-2からT-4へ」
◆防仁学:「蒼い衝撃「ブルーインパルス」 ブルーインパルス物語その④ 三代目はT-4中等練習機」