ブルーインパルスの展示飛行課目については、皆さま御存知であると思います。
展示飛行課目を効果的に行うため、目に見えない部分で様々な努力が行われています。
今回は、表に出ない部分についてまとめてみました。
展示飛行の裏側で
プロシージャー・ターン
ブルーインパルスの行う展示飛行は華やかに見える表側だけではありません。
プロシージャー・ターンという演技間のつなぎや、編隊と単独機のタイミングを図るための飛行があります。
特に余剰推力の小さかったT-2では、演技間隔が長くなるため少しでも間合いを詰めるために課目構成を含めてプロシージャー・ターンが研究されました。
松島基地のフライトシミュレーターを使って取材を受けた時、幾度となく繰り返して行う操作においても、飛行機の航跡が一定でなお且つ幾何学模様が地図上に描かれていく様子を見た取材スタッフが驚いていました。
ジョインナップ(空中再集合)
編隊解散後の再集合を安全で、なお且つ最短時間で行うための工夫も行われました。
通常、操縦者が訓練で行うジョインナップ(空中再集合)は、編隊長に対して一定角度の後方から安全な高度差を保持して集まってきます。
しかしブルーインパルスの展示飛行において四方に分かれた飛行機は、編隊長が一定の軌跡を飛行しながら次の課目のため侵入してくるまでに編隊の体形を整えなければなりません。
このため、様々な方向から編隊長を目がけて最短時間で全員が安全・確実に集合するため、独自の方法が設けられていました。
最大”G”(重力加速度)がかかる場面も演技中ではなく、再集合の時が多くなっています。
単独機進入のタイミングが遅ければ経路を膨らませたりして適切な展示間隔を保つ事も一つでした。
魅せるための工夫
隊形一つ一つの見栄えについても、様々な研究が行われてきました。
例えば基本的なダイヤモンド(菱形)隊形で360°旋回をする時、4番機(後尾機)は観客の近くでは編隊長の真後ろに位置していますが、正面遠方に行った時は真後ろを維持していると下がった様に見えるため、エンジン半分ほど上方に移動します。この操作によって観客からは真後ろに位置しているように見えるのです。これは右翼・左翼機とも同様で編隊長に対して占位する位置を変えながら展示飛行を行っております。
T-2の課目であった「上向き空中開花後の一点交差」でも直角に交わる航空機は高度差をもってすれ違うために、見る場所によって同時に通過したように見えなくなります。
これを解消して主観客席から同時に交差したように見せるため、交差するタイミングをずらしておりました。
観客の目の前で隊形を変える時も、編隊内の飛行機との釣り合いを見ながら操作して行きます。
指示(号令)について
F-1ドライバー中島悟氏が取材のために搭乗された時に一番感心されたのは、「6機の飛行機が連携しながら展示飛行しているのに、思っていたより交信がシンプルですね。」という事でした。
展示飛行中は、機種や展示課目で違いますが時速500km~900kmの速度を出しているために上空での指示は丁度良いタイミング(適時)に指示を与える事が必要です。
また、限られた時間に必要な指示を出すために無線を独占してしまうと、必要な情報を出したり、聞いたりする事が出来なくなってしまいます。このためには簡潔で明確な交信が必要となってきます。
韓国空軍ブラックイーグルスの師
韓国空軍でアクロバット部隊の常設が決定された時、編隊長と単独機パイロットが急遽、来日して松島基地を訪れて来ました。
彼らはブルーインパルスのメンバーから展示飛行の課目や実施方法などを学んで行きました。地上において説明を受けるだけでなく、実機に乗ってブルーインパルスの訓練を体験して韓国に帰っていきました。
彼らは、この体験を通じて編隊とソロの連携要領や課目構成を含めて学んで、国に戻った後は訓練を重ねて、「ブラックイーグルス」という名前でソウルエアショーなど各種行事に参加しました。
まとめ
・ブルーインパルスの演技を支える一つが目に見えない部分で行われているプロシージャー・ターンである
・ブルーインパルスのパイロットが行う空中再集合は、普通のパイロットとは違う方法も取っている
・観客に同じ隊形で見せるために、実際には隊形を変化させている
・韓国空軍ブラックイーグルスはブルーインパルスを手本とした
参考サイト
◆防仁学:「蒼い衝撃「ブルーインパルス」 ブルーインパルス物語その① F-86F」
◆防仁学:「蒼い衝撃「ブルーインパルス」 ブルーインパルス物語その② 国産超音速練習機T-2」
◆防仁学:「蒼い衝撃「ブルーインパルス」 ブルーインパルス物語その③ T-2からT-4へ」
◆防仁学:「蒼い衝撃「ブルーインパルス」 ブルーインパルス物語その④ 三代目はT-4中等練習機」
◆防仁学:「蒼い衝撃「ブルーインパルス」 ブルーインパルス物語その⑤ スモークについて」