昨年6月に内閣府防災担当で進められていた、将来の「防災」への在り方がまとめられて、「「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言」(以下「防災4.0」と省略)として発表されました。
この提言を受けて「「防災4.0」未来構想プロジェクトが凄い(前編)」
では、「防災への意識と発想の転換」をテーマについてご紹介いたしました。
そして今回のテーマはもう1つ大きく掲げられている「社会全体の復元力を高める取り組み」を取り上げてみたいと思います。
「社会復元性」復元力(レジリエンス)の確立
「防災4.0」では明確に定義していますので、紹介してみたいと思います。
「行政(国・地方公共団体)のみならず、地域、経済界、住民、企業等の多様な主体のそれぞれが、防災を「自分ごと」として捉え、相互の繋がりやネットワークを再構築することで、社会全体の復元力(レジリエンス)を高め、多様な災害に備える社会を、「防災4.0」の目指す姿として追及していきたい。」
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P06.)
そして以下の4点を挙げております。
・ 環境適応力(=整いすぎた計画ではなく、むしろ常に危機に備え対応できる計画策定の態勢)
・ リスク判断力(リスク・リテラシー=固定化した「成功例」を疑うこと)
・ 多重性・代替性の確保(リダンダンシー=多重防御(ムダの効用))
・ 社会関係資本(=自助・共助・公助・「縁助(ネットワーク効果等)」:国民も「大きな安全」の建設者として社会に参画する責任)
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P36.)
このように述べられています。
4つの柱をもって社会復元力の確立を行う
・環境適応力
「「防災4.0」未来構想プロジェクトが凄い(前編)」でも紹介した、住民に最も近い位置にいる地方自治体が中心になって、国の方針を忠実に遵守するような従来型の行政手法から脱却して主体的に考えるところから始まります。
・リスク判断力
「過去に発生した災害対応における教訓を踏まえ、累次にわたる防災対策の改善を図ってきた。」
「常に最新の知見による検証を継続すること(検証のバックフィット)が重要である。「検証なくして真実なし」、「真実なくして教訓なし」、そして「教訓なくして備えなし」という一連のサイクルを持続的に回し続けることで、社会として復元力を強化」
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P36.)
過去の災害やその対策対応を「最新の知見で見直し続ける」事をいいます。
救急救命法が5年に1度見直されるのと同じです。
人の体はそうそう変わりませんが、それでも「この救命法で良し」とせずに最新の研究を踏まえて1から検討するのと同じです。
これは、私たちも「当然」としている事がいつの間にか「当然ではなくなる」可能性がありますので、最新の情報に接する必要がある事を意味しています。
・多重性・代替性の確保
「多重性」については非常に面白い具体的な手法が提示されています。
「企業は、例えば全国的な店舗網、物流網等固有のネットワークにより、各地の状況把握を可能とする体制を構築している。これらの企業と、国や地方公共団体が共有できる情報やネットワークの在り方について検討を開始するなど、公的主体と経済団体・企業との連携を強化すべきである。」
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P32.)
・社会関係資本(=自助・共助・公助・「縁助(ネットワーク効果等)」
「スマートフォンの普及を背景として、ソーシャルメディアを活用した、地域情報の集約・閲覧システムが有効と考えられる。」
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P33.)
コンビニやスーパー。通販会社や宅配業者など、全国を網羅する企業はたくさんあります。
こういった企業の連絡網(状況把握能力)を行政の防災ネットワークと連結して、連携を図る事が言われています。
更には国民が発するツイッターやフェイスブック、LINE等のSNS情報を集約して、災害情報を提示すると言った事も提示されています。
今まで行政やマスコミ発だった災害情報に対して企業や国民が参加する取り組みが見えてきます。
代替性とムダの効用
これは先の「障害者差別解消法スタートにより変化する被災者支援」
で、一部触れましたが、障がい者に対する合理的配慮が義務となり、あらゆる避難所で障がい者に対する支援物資の備蓄や告知方法、接し方の教育と準備が必須になりました。
実際には避難所において、障がい者が避難してくる事が無い事も考えられます。
しかしながらその準備は、災害によって怪我をした人にも転用できますし、分散備蓄する事によって、避難所ごとのネットワークで物資のやり取りが出来るようになります。
縁助(ネットワーク効果等)
今回初めて「縁助(ネットワーク効果等)」という言葉が出てきましたが、これは要支援者も大多数の健常者とのネットワークに加える事によって生まれる、災害情報の構築と防御をいいます。
要支援者を省いた状態で機能させる事は「縁助」とは成りえないのでしょう。
「我が国における組織の大きな特徴として、その集団としての同質性が良い点として機能する反面、同時に異論が出にくい体質が欠陥となり得るのである。このような集団としての浅慮、疑義を呈する文化の欠如、誰が責任ある決定をするのか不明確であることの克服なしには、構造的な解決には至らないものと考える。」(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P36-P37.)
「誰かが頑張るのではなく、自分たちが「できることは、すべてやる」ということである。」(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P39.)
まさにこれから更に激甚化が想定される災害にあって、健常者、障がい者、妊産婦、乳幼児の区別なく国民全員の参加を求めて結んでいます。
「NPOやボランティアは地方自治体の下位組織ではなく、地方自治体は国の下位組織ではなく、会議で同じテーブルについたら、同等の関係性をもって、目的に対する準備をしなければいけない。」そんな未来像が示されています。
それが自分と家族の生活再建への近道という、非常に実利的な提言となっています。
内閣府がまとめたという事は、今後防災はこの流れで進んでいくと思われます。
近所で防災イベントがあったら是非覗いてみてください。
覗いてみた事がある方は、今度は是非参加する側になってみてください。
まとめ
・社会の復元力を高めるには社会全体の参加が必要
・同質性で固まるのではなく、異質性を受け入れて災害に強くなる