昨年6月に内閣府防災担当で進められていた『将来の「防災」への在り方』がまとめられて、【「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言】(以下「防災4.0」)として発表されました。
これは今後の私たちの生活に大きな影響を及ぼし、今までの防災・減災への取り組みの大きな転換を図る内容となっています。
大きなポイントは「防災への意識と発想の転換」と「社会全体の復元力を高める取り組み」の2つですが、今回は「防災への意識と発想の転換」に絞って詳しく取り上げます。
防災4.0とは?
国の限界を明らかにした提言
そもそも「防災4.0」の「4.0」とは、どういった数字なのでしょうか?
内閣府の「防災4.0」ホームページによると、防災の概念や取組を変えるほど大きな3つの自然災害(1.伊勢湾台風、2.阪神・淡路大震災、3.東日本大震災)を3つの転換点としてとらえ、さらに未来へ向けてあらたな方向性を打ち出すために「4.0」としているのだそうです。
我が国は、その自然的条件から、様々な災害が発生しやすい特性を有しており、これまでの度重なる大災害の教訓を踏まえ、防災に関する取組を推進してきました。
特に伊勢湾台風(1959=1.0)、阪神・淡路大震災(1995=2.0)、東日本大震災(2011=3.0)は大きな転換点となってきました。気候変動がもたらす災害の激甚化は、これら大災害に相当する可能性があり、行政だけでなく一人一人が災害のリスクとどう向き合うかを考え、備えるための契機となるようあらたな防災・減災対策の方向性を打ち出したいという決意を込めて、本プロジェクトの名称に「防災4.0」を冠しました。(内閣府│防災情報のページより抜粋)
「防災4.0」では、前提条件として下記の記述があります。
現に発生している気候変動がもたらす災害の激甚化に対しては、そもそも災害を取り巻く前提が変わってきていることを認識するべきである
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P6)
「100年に1度」「50年に1度」の災害という尺度が崩壊し、従来の対策で「安全」「守れる」とされてきたものが通用しなくなる深刻な問題が現に生じつつある
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P21)
地球の温暖化による気候の変動や、人口構成の変化、過疎化と都市化による社会基盤の変化などにより、いままでの想定を超える災害の激甚化について数字をあげて説明しています。
いままでの取り組みでは「万全」とせずに、防災は新しい時代に入った事への“気付き”をうながしています。
では、今までの防災・減災への取り組みは何だったのでしょうか?
もちろん、今までの取り組みが無駄なわけではありません。
激しくなる自然災害に対応できるように、防災への取り組みをさらに強固に積み上げていきましょうという方向性を打ち出したのです。
そしてこの前提条件を受け入れた上で、次の意識改革を促します。
災害を完全に「防ぐ」ことは期待できない状況を冷静に受け止める必要がある
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P6)
増大する自然災害の脅威により、従来の「完全防御」から「減災」への方向性の転換を改めて認識する必要がある
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P9)
これは公的機関が災害の「完全防御」は不可能と認めた事になります。
市民が国や政府などによってただ「助けられる存在」から、国が出来ない部分を埋められる「助ける存在」にならなければならない事が要求されているのです。
自衛隊などの「公助」ばかりを頼りにするのではなく、ある程度は自力で行う「自助」・近所の人と助け合う「共助」で対処しなければならない事を意味します。
アメリカ合衆国第35代大統領J・F・ケネディの言葉に「国に何かをして貰うのではなく、国に何が出来るのかを考えよう」と呼びかけた言葉と重なります。
今までのやや受動的な取り組み姿勢から、さらに能動的な防災・減災にまつわる活動への参加が要求されているのです。
裏を返せば、備えが出来ていない地方や家庭は「自助・共助不足」として被害を甘受しなければなくなります。
より地方と個人の責任が重くなりました。
この事を端的に示すものが下記抜粋です。
受ける被害は外力の強さのみに依存するものではなく、これらを受け止める我が国社会の「脆弱性」の変化を考慮する必要がある。つまり、インフラ整備や一人一人の防災意識の向上によって災害リスクを軽減できる一方で、高齢社会の進展や都市化によって脆弱性が高まり、災害リスクが増大することも考えられる
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P20_21)
個人それぞれの取り組み次第で被害を減らすことができる可能性と、逆に準備が不足していれば被害が増える可能性を指摘しています。
防災・減災により積極的な地方や家庭は災害リスクに強く、受動的もしくは取り組んでいない地方や家庭は災害リスクに弱くなる……という地方格差が生まれることになります。
そしてこの指摘は、衝撃的な文言へとつながります。
公的支援による生活再建には限界があり、原状回復が保証されるものではないことを一人一人が理解することが必要である
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P23)
公的機関が限界を認め、頼り切られても原状回復を保証する事は出来ない……というのです。
恐怖ばかりを煽っても議論はねじ曲がり論点がずれるのでなるべく扇動的な文章は避けますが、現実としてこれからより個人の防災・減災の取り組みが重要になるのは間違いありません。
災害発生後に「国は何をやっているんだ」という文句は、これから「自分は何も準備をしていなかった」という告白に変わるのです。
防災4.0で変わる防災対策
被害を受けた後の復興も視野に入れた備えを
ではこれから具体的に私たちはどうすればいいのでしょうか?
対策の1つに「保険」があげられています。
従来の生命保険や傷害保険では自然災害で被った被害は保障されない場合があります。
保険の見直しも、災害への取り組みになります。
災害発生後の速やかな生活再建のためには、個人・世帯単位においても保険・共済による経済的な「備え」が極めて重要である
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P25)
「防災4.0」で内閣府の有識者が具体的に保険や共済の重要性を示した事により、災害からの生活再建をサービスとする保険商品が新たに発売される事が予想されます。
どの保険会社に、どの保険商品に入るのかはもちろん自分自身で決めることです。
災害で直接被害に遭わない防災・減災も大事ですが、生活再建も視野に入れた“先手”を打っておきましょう。
個人の取り組みの他には、地方自治体による防災・減災の取り組みについても指摘があがっています。
地方公共団体の職員が、国(又は都道府県)の方針を忠実に(ときには過度に)遵守するような従来型の行政手法から脱却し、地域の実情を踏まえて自ら主体的に考え
(内閣府,平成28年,「防災4.0」未来構想プロジェクト有識者提言,P24)
国よりもより市民に近い位置にいる地方自治体が地域の実情を踏まえて防災・減災に取り組まないと、他の自治体と相対的に比べて自ら災害に弱い地域を作りだしかねない事を示唆しています。
すでに「子育て支援」や「高齢者福祉」については地方自治体による差が明確になり始めており、それによって引っ越し先を考える人も多くなってきています。
今後はそれらの福祉体制に加えて、防災・減災の意識が高い自治体への人口移動も、自然な流れで顕著になると予想されます。
この「防災4.0」で指摘されている様に、単に地理条件で災害リスクが左右される訳ではないので、よりアイデアと普段の努力が重要です。
すでに静岡県浜松市では内閣府とタッグを組んで「防災4.0」全国唯一のモデル事業都市として様々な取り組みをはじめています。
筆者の個人的な感想ですが、この「防災4.0」を読んだ時にスイス政府が各家庭に配った「民間防衛」を思い出しました。
これは戦争や災害に備える場合や、実際に起きた場合の対処の基本を記したマニュアル本です。
日本で言えば東京都が配布・販売している防災ブック「東京防災」に近いものになります。
その中で、事前備蓄をせずに買占めに走る行為を「恥ずべき事」と厳しく糾弾している一節がありました。
日本の防災マニュアルや防災ブックでここまで厳しい言葉では非難していません。
しかしこれからは災害に対して十分な事前準備をしていない人たちや地方自治体に対しては、国が大きなリソースを割かなければならなくなるため、非難の対象にもなりかねません。
この「防災4.0」は従来の防災意識から、発想の転換・進化を促される提言でした。
今後の内閣府が主導する防災対策は、この「防災4.0」を元に進んでいくと思われます。
地域や個人の災害対策についても、この提言を踏まえて準備をしておかないと、災害時に困る事にもなりかねません。
皆さまも一度「防災4.0」をじっくり読んでみて、防災・減災の備えを見直してみてはいかがでしょうか。
まとめ
・災害は完全には防げない
・国は全てを保証出来る訳ではない
・自分と地域が主体になって、防災・減災・生活再建を行わなければならない
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