連載「自衛隊・部隊を訪ねて」では「NPO法人JPSSO」協力のもと、全国各地の自衛隊部隊を訪問し、部隊紹介と所属隊員インタビューを行います。
今回紹介するのは海上自衛隊の舞鶴基地(京都)です。
前回に引き続き、舞鶴基地紹介をお届けいたします。
今回からいよいよ、多用途支援艦ひうち艦長・藤井3等海佐などの隊員インタビューです。
「ひうち」は人を育てる艦
小型艦ならではの強み
艦長の藤井崇司3等海佐は着任した当初、乗員も少ない小さめサイズの艦艇ならではの印象を受けたといいます。
「出入港の際、エンジンを担当する機関科の隊員も甲板に出て作業を手伝う姿などを見て、団結力の強さを感じました。護衛艦のように大きな艦艇だと乗員も多いので分業が成立しますが、『ひうち』ではみんなで協力するという意識がおのずと高いのでしょう。艦長としての着意事項としては、われわれに与えられている任務を完遂するためには装備をいかに扱うかが重要で、かつ、いざという時にしっかり使えないといけないので、常に機器が使える状態であることを徹底しています。また、装備品や機器が万全でも隊員の体調が不良では能力を発揮できませんから、日頃から健康管理に留意するよう伝えています」
支援部隊なので前面に出ることは少ないですが、多用途支援艦は青森県の大湊、神奈川県の横須賀、広島県の呉、長崎県の佐世保、そしてここ京都府舞鶴の各地方隊に1隻ずつしかありません。
「この艦がなければ海自の任務遂行に障害が出るでしょう。だから私には『ひうち』はなくてはならない艦なのだという自負がありますし、おそらく隊員もそう考えていると思います」
海曹士の服務やメンタルヘルスに対してよりきめ細やかな指導をすることで艦長を補佐する先任伍長であり機械員長である辻原満海曹長も、「ひうち」には小型艦艇ならではのよさがあると言います。
「小型艦艇では大型艦艇に比べ乗組員の人数も少ないため一人に与えられる仕事量が多く感じられます。そのため協力性と団結力がなければ中々任務を遂行することが困難です」
なかには艦艇の花形であるイージス艦や、新しい艦艇に乗りたいとこぼす隊員もいます。そんな隊員には「艦乗りは協力性や団結が基本、それを磨くには小型艦艇が一番だよ。その後に護衛艦乗っても全然遅くない、かえって君はいい艦に乗れた」と言っています。その教えを守った隊員が護衛艦に異動になると、「人が困っているとすぐ手伝いに行く、素晴らしい」という評判が耳に入ってきます。
「小型艦艇は人を育てる艦なのです」
艦艇勤務一筋だったため、3人の子どもの育児や教育は奥さんに任せきりでした。
家に帰れない日も多い日々、無理もありません。
「その分、家にいる時は家族との会話を心がけました。子どもたちが大きくなっていやがられようが、話をしなければどんどん離れてしまいます。公私ともども、会話は本当に大事だと痛感しております」
運用長の小野寺秀三1等海尉は、30年以上を艦の上で過ごしてきました。
初代の南極観測船「しらせ」で3度、南極への往復も経験しています。砕氷艦である「しらせ」を運用しているのは横須賀地方隊で、「しらせ」の乗員になって南極に行きたいと海上自衛官を目指す人もいる、人気の船です。
「もともと小型艦が好きで、特に『ひうち』のように洋上での運用作業がある運用艦は大好きです。体を使って潮に当たって海水を浴びながら働くのが性に合っているんでしょうね」
2等海士から自衛官としてのキャリアをスタートした小野寺1尉から見て、今の若い隊員は頭がよくマニュアルもしっかり理解していますが、やや応用力に欠けるところがあるように感じます。
「例えばロープを引っ張るという作業ひとつにしても、揺れや風によって微妙にきつくしたり緩めたりするのですが、そこまではマニュアルに書かれていません。その時の状況から最善を考えるということがなかなか難しいようです。とはいえ、経験を積めば応用力は身につけられます。また、自衛隊は努力を認めてくれるところなので、鍛錬を続けていれば必ず見てくれている人がいるということも、若い隊員には強く伝えたいですね」
(3)へつづく
(文:渡邉 陽子/取材協力:NPO法人JPSSO)