2016年10月に津軽海峡フェリー株式会社から、青森から函館を結ぶフェリー「ブルードルフィン」がデビューしました。
このフェリーは津軽海峡の旅の足として楽しめるほか、大規模災害時には「災害時多目的船」として活躍できるように設計されています。
「災害時多目的船」とはどういうものでしょうか?
詳しく調べてみました。
災害時多目的船とは?
大災害時の活躍が期待
災害時多目的船
災害時多目的船である「ブルードルフィン」は一般岸壁に横づけすることができて、専用の設備のない場所でも乗り降りすることができます。
ケガ人や病人を乗せるストレッチャーが通ることが出来るように、通路は広く設計されています。
陸上にきれいな水や電力の供給をすることができます。
たとえ陸上から電気や水道などの供給がない状態でも、しばらくの間はトイレやシャワー室を使うことも可能です。
宿泊ができるスペースも兼ね備えているので、避難所として泊まることができます。
さらには「ドクタールーム」も完備されているので、大災害発生時には一時的な救護所としての利用が期待できます。
四方を海で囲まれて3万キロ以上の海岸線を持ち6,852もの島からなるこの日本においては、災害時におけるフェリーの活用についてこれからも積極的な発展が期待されるところです。
災害時多目的船誕生の経緯
1991年から検討スタート
この「災害時多目的船」は様々な検討を経て、実に約25年の時を経て「ブルードルフィン」という形に結実しました。
さかのぼると1991年(平成3年)に「多目的船舶調査検討委員会」が政府内に設置されて検討がスタートしました。
その後、阪神淡路大震災や三宅島の噴火、東日本大震災などを経て2012年(平成24年)内閣府防災担当により「災害時多目的船に関する検討会」が開かれるようになります。
2013年(平成23年)末のデータとなりますが、大規模災害時に洋上からの支援機能を持つ日本の艦船と能力を見ると、
海上自衛隊 中継能力(飛行甲板装備)61隻 輸送能力小型鑑定を除く全艦艇
海上保安庁 中継及び輸送能力36隻
民間輸送船 RORO機能(自動車がそのまま乗り込める能力)保有船 約130隻 トラック2,000台分
旅客カーフェリー(航続100キロ以上) 46隻 収容人員約3万人 トラック7,000台
の能力を有しています。
特に海上自衛隊の保有する護衛艦は、士官室がそのまま手術室となりえる機能を有していているほか、病床も整備されていて、医官が乗艦すれば医療機能を発揮する事が出来ます。
しかし、海上自衛隊と海上保安庁は医療業務は本来任務ではなく、更には災害時には行方不明者の捜索・救助活動、海上や港湾の浮遊物を除去する航路開拓などの任務に従事しなければなりません。
当然ながら東日本大震災の時のように、周辺国の偵察活動が活発化し、排他的水域や領海に侵入してくる他国船の対処にも忙殺されます。
東日本大震災では沿岸部の病院も多数被災しましたが、東日本大震災における海上自衛隊の医療業務は、健康診断支援に留まりました。
つまり海上からの医療支援業務は皆無に等しく、「災害時多目的船」として災害時に医療支援を行える艦船の必要性が確認されました。
また、艦船は宿泊施設・食料保管施設・発電・給水・通信機能を有して、長期間活動できる自己完結性を持っている点が陸上の自動車・鉄道と大きく違います。
その機能を如何なく発揮したのが、2000年(平成12年)の三宅島噴火に伴う大規模非難の際でした。
東海汽船株式会社の「かとれあ丸」には東京都の現地対策本部が設置されて、現地で避難の指揮を執りました。
その他にも船舶は輸送・捜索・救助・給食・給水・入浴支援にも活躍し、被害を出すことなく島民と観光客合わせて4,000人の避難を船舶で完遂しました。
この時も医療支援は陸上で行われ、船舶では行われませんでした。
こういった事例を踏まえ、船舶の移動力・輸送力は国民を救助するための重要な手段たり得るとの結論に至り、2013年(平成25年)には「災害時多目的船(病院船)」専用船の保有が望ましいとの結果に至りました。
将来起こるであろう、南海トラフ大地震のように広範囲にわたる場合には移動力のある船舶による医療が必須と位置付けられましたが、専用船の整備に向けては更なる検討と工夫、さらには莫大な予算が必要でした。
(「大災害時に活躍? 「災害時多目的船(病院船)」とは(2)」につづく)
まとめ
・これから就役する旅客フェリーは災害時多目的船となる事が予想されます
・避難する際、将来は海の上に避難する事があるかも
参考リンク
内閣府
災害時多目的船(病院船)
災害時多目的船に関する検討会
国土交通省
大規模災害時の船舶の活用等に関する調査検討会
超党派議員による「災害時多目的船建造についての決議」(PDF)