2016年10月にデビューしたフェリー「ブルードルフィン」は普段は青森から函館をつなぐ船として活躍しますが、いざという時には「災害時多目的船」としても活躍できるよう設計されています。
今回は「大災害時に活躍? 「災害時多目的船(病院船)」とは(1)」のつづきです。
病院船を準備するための課題
ネックは莫大な予算と人員確保

マーシー級病院船 shahreen / Shutterstock.com
政府によって長年検討された結果、将来心配されている「南海トラフ大地震」のように広範囲にわたる大災害の場合には移動力のある船舶による医療が必須と位置付けられました。
しかし専用船の整備に向けてはさらなる検討と工夫、そして莫大な予算が必要でした。
日本と諸外国の「医療能力を発揮する船」を比べてみると。
海上自衛隊
12隻(手術用寝台14床、患者用寝台174床)
遠距離航海や有事の際に医官が乗艦
普段は衛生員(救急救命士・看護師)のみ乗艦
海上保安庁
2隻(手術用寝台4床、患者用寝台4床)
医官が存在しないため、必要時に医師と看護師が乗船
アメリカ海軍病院船マーシー
世界最大の病院船(手術室12室、患者用寝台1000床)
中国人民解放軍海軍病院船平和方船
(患者用寝台600床)
となります。
米国のマーシーは世界最大の病院船という事を鑑みても、このように日本と外国では雲泥の差があります
内閣府では災害時における陸の拠点病院と同じ規模の、手術台10台・患者用寝台500床・500名の医療従事者での専用船の保有が検討されました。
ここでまず問題になったのが、「災害時多目的船(病院船)」を活用する時の医療従事者の確保でした。
アメリカ海軍病院船マーシーには1,215名の海軍医療軍人が乗り込みます。
東日本大震災の時に派遣されたJMAT(日本医師会災害医療チーム)は最大で706名。
自衛隊の医官の定員は平成21年3月末で陸上自衛隊779名・海上自衛隊225名・航空自衛隊172名でした。
アメリカ海軍病院船マーシーに、自衛隊医官全員が乗り込んでやっと同じくらいの専用船の医療従事者が確保されること、さらに東日本大震災の際に派遣されたJMATの最大人数では想定人数まで追いつかない事がわかりました。
さらには艦船という特性上、専用船自体がドックでの定期検査・修理が必要である事から、最低2隻が必要となります。
事実、アメリカ海軍はマーシーとほとんど同じ病院船コンフォートの2隻を運用しています。
最低2隻保有した場合「平常時には一体何をするのか」という事も課題として残りました。
離島への健康診断や医療の提供・国際貢献などがあげられましたが、離島への医療支援とするには専用船の規模が大きすぎる事、国際貢献として派遣されている間に震災が起きたらすぐには戻って来られないという事から、課題は残されました。
そこで海上自衛隊を主体として「災害時多目的船(病院船)」への転用可能な護衛艦の建造も検討されましたが、医療専用船として建造された艦船でなければジュネーブ条約の保護対象とはならず、攻撃・捕獲の対象となる事が課題となりました。

病院船内部 shahreen / Shutterstock.com
こういった数々の検討を踏まえて、民間旅客船に運搬可能なコンテナ型の医療施設「医療モジュール」を積み込んで、洋上からの医療支援のあり方や、負傷者や患者の手術などの医療行為を検証する事になりました。
既にこの検証は始まっており、2015年(平成27年)には海上自衛隊の護衛艦に医療モジュールを積み込む実証実験が行われ、2016年(平成28年)には民間旅客船に医療モジュールを積み込む実証実験を行うそうです。
しかし、実際に民間旅客船で医療行為を行うにあたっては船舶安全法の改正が必要とされ、現在も検証が引き続き行われております。
では、冒頭にあげた「ブルードルフィン」はどのような「災害時多目的船」なのでしょうか。
これは内閣府の「災害時多目的船(病院船)」の検討を受けて、国土交通省が今できる「災害時多目的船」の検討を行って生まれたものです。
今後「災害時多目的船(病院船)」ではなく、民間旅客フェリーを活用した「災害時多目的船」が増えてくると思われます。
また国土交通省は今月20日、大災害が起きたときに自衛隊や警察などの救援部隊を輸送するように民間のフェリーを持つ会社に要請し、各社はこれを了承しています。
この民間とのタッグによって、大規模な人や車両・物資を迅速に搬送できるようになりました。

cjmac / Shutterstock.com
日本における海からの支援の手は今も前進しています。
普段は陸に住んで意識しない四方の海ですが、私たちもアイデアを出し合って防災・減災の取り組みを広げていきましょう。
まとめ
・これから就役する旅客フェリーは災害時多目的船となる事が予想されます
・避難する際、将来は海の上に避難する事があるかも
参考リンク
内閣府
災害時多目的船(病院船)
災害時多目的船に関する検討会
国土交通省
大規模災害時の船舶の活用等に関する調査検討会
超党派議員による「災害時多目的船建造についての決議」(PDF)