現在の自衛隊は、先達から引き継いだ伝統の上にあり、良い形で残すべき伝統も多くあります。現代の生活やいざという時にも役立つ、旧軍の教えや伝統について紹介したいと思います。
船乗りの心得
「スマートで、目先が利いて、几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り」
旧海軍からの伝統精神を表現する標語の一つで、日々刻々千変万化する海上での勤務において、船乗りとして必要な心構えを端的に表現したものです。
①「スマート」とは、敏捷、機敏、スピーディー等の身体の動きの意味とともに、洗練されている、颯爽(さっそう)としている、無駄がない、頭の回転が速い、形式にこだわらない等の感覚をまとめて表現したものです。
②「目先が利いて」とは、先見の明がある、臨機応変で視野が広い、周囲に対する気配りに優れている、人より先のことを考えている、危険予知能力などがあるということです。
③「几帳面」とは、整理整頓がされている、時間を守る、清潔である、他人に迷惑をかけない、物・心両面の用意ができているということです。
④「負けじ魂」とは、苦しく困難な局面においても任務を投げ出すことなく、全力で最後まで努力しようとする気持ちを表現しています。
艦船という狭い閉鎖された環境の中では、艦内一丸となる強力なチームワークとともに個々の自律や自己完結が求められます。「沈まばもろとも」という運命共同体であることから、人を思いやる姿勢や危険予知能力を育む必要があります。風雨、波浪、複雑な海潮流など自然の猛威や海上の危険と隣り合わせの環境から、先を読む能力と危険に対する強靭な精神力及び規律のある行動が不可欠です。また、船乗りは、世界共通の職場としての国際性と海外では国の代表と認識される立場もあり、国際的に連綿と受け継がれる心構えとも考えられます。
海軍伝統の心構えが、一般社会の中ですべて適用できるとは思いませんが、会社勤め等の、より広範囲の場においても、個人的な関係の中においても、自律の言葉として活用できる部分は多いと思います。特に、核家族化や少子化が進み集団生活の場が少ない若い人たちにとって、集団生活のマナーやルールに通じる心構えになると思います。