現在の自衛隊は、先達から引き継いだ伝統の上にあり、良い形で残すべき伝統も多くあります。現代の生活やいざという時にも役立つ、旧軍の教えや伝統について紹介したいと思います。
5分前の精神
予定された作業、日課の5分前には全員が準備を整え、定刻と同時にその作業を始められる状態にする心構えを表現したものです。
「5分前の精神」は、厳格な時間的観念を植え付け、有事の作戦行動に支障の無いことを終極の目的とするものですが、平時の勤務、諸作業においても、各人が次の事象に対処するための心身の準備の重要性を示唆するものです。
海上自衛隊の日課の号令の中には、「総員集合5分前」、「課業始め5分前」、「国旗揚げ方5分前」等々、作業に従事する5分前を知らせるものがあり、その時間になったらスムーズに作業ができるよう、所定の配置や場所に動き始めます。「総員起こし5分前」の号令もありますが、この時は目を覚ましますが動き出してはならず、定時(通常は6時に起床ラッパが鳴る)になるのを毛布の中で待つようです。
旧海軍の軍艦の出港時刻5分前に、軍艦に乗り込むときに使用するタラップを外すことになっていたので、「5分前の精神」が厳しく躾けられるようになったと言われています。艦船の勤務においては、岸壁を離れて出港したら追いつくことができないため、外出等においても時間厳守を厳しく躾られます。「人は艦を待つも、艦は人を待たず」の言葉もあり、艦船の出港に遅れることは船乗りの恥で、厳しい懲戒の対象になります。
5分前の予令は時間の無駄であるとか、5分間は長過ぎるとの議論がありますが、日々刻々変化する海上での勤務において、先を見越して余裕を持って心身の準備をする5分間は丁度良い時間かもしれません。「○○時間」と言われるように、15分程度は遅れても当たり前がまかり通っている社会がありますが、時間を守ることは相手の時間を無駄にしないことにも繋がります。常に一歩先のことを考え、それに対する時間的余裕を持って事に臨むことは、自分の心身の余裕となり、信頼に足る人物として認められる一助にもなります。時間に追われる現代の生活において、限られた貴重な時間を尊重するためにも、「5分前の精神」を心掛けることは意味があると思います。