2016年11月8日午前5時15分頃に福岡県福岡市の博多駅前2丁目にある道路が陥没し、長さ30m・幅27m・深さ15mに及ぶ大きな穴が出現しました。
幸いな事に道路陥没による死傷者は一人も出ませんでしたが、陥没した道に面したビルやコンビニは入り口から先に出られなくなっており、発生があと数時間遅ければ惨事となっていた可能性があります。
停電や断水・ガス漏れといった2次被害が発生しており、付近には避難勧告が出ました。
今回は、博多駅前の道路陥没事故が起こった原因を詳しく調べました。
道路陥没事故の主原因は地下水
地下鉄の工事現場に流入
当時、博多駅前では市営地下鉄の延長工事が行われていました。
地表から約16m以上地下に潜った場所でトンネルが掘削されていました。
掘削の際に工事個所の上にあった岩盤層に何らかの原因で穴が開いてしまい、岩盤層の上を流れていた地下水が流れ込んだのが原因と福岡市は発表しています。
地下の工事・開発において、地下水は非常に厄介な存在です。
過去にも工事や取水で地下水が少なくなる事で、地盤沈下や陥没事故を起こしてしまった事例はありました。
例えば関東平野では明治時代の1892年から2013年までの間に、井戸の掘削や工業用水の取水によって400cm以上地盤が沈下しているとされています。
2000年6月には今回と同じ福岡市の中央区薬院地下鉄工事で地下壁面を抑えていた土留が崩れ、同じように地上の道路が陥没する事故が起きています。
この時も主な原因は「地下水」とされています。
今回の事故では地下鉄の延長工事によって岩盤が傷つけられ、道路の下に溜まっていた地下水の重みに耐えられなくなったことが岩盤層に穴が開いた原因ではないかとも考えられています。
正確な原因は国土交通省の調査結果を待つ必要がありますが、今回の地下鉄延伸工事による岩盤への刺激が原因の一つであった事は間違いありません。
工事現場はまだ作業前だった為に事故に巻き込まれた人は居ませんでしたが、一歩間違えれば地表と地下の双方で被害が起こる可能性がありました。
工法に問題あり?
採用されたナトム工法に疑問符
工事の方法は「ナトム工法(NATM工法)」と呼ばれる主に地下水が少ない場所で行われる方法が用いられており、大量の地下水が存在する可能性を考慮していなかった可能性があります。
「ナトム工法」とは「新オーストリアトンネル工法」の略で、掘った場所をコンクリートで素早く固めて岩盤までボルトを打ち込み固定する工法です。
トンネルと地中の岩盤や地山そのものが一体となって支える為、他の工事方法と組み合わせる事で比較的脆弱な土地であっても出来るという特徴があります。
しかし岩盤にボルトを打ち込む際に充分な厚みが無かった為、今回の地下水流入に繋がった可能性もあります。
事故原因の真相調査が待たれますが、採用された工法と引き起こした結果から考えると、事前調査が不十分であった可能性が高いようです。
博多駅前の土壌
川に挟まれた水の多い区域
元々「博多駅前」がどういう場所だったかを知る事が、今回の事件原因を探る鍵となります。
現在の博多駅が所在する福岡市博多区という地域は、那珂川と御笠川に挟まれた中州の様な区画です。
福岡市の水害ハザードマップを見てみると博多駅周辺は川からの浸水被害が想定されており、周囲と比較すると比較的低い場所でもあるので水が溜まりやすい場所とも言えます。
博多の歴史を紐解くと、縄文時代の頃は今よりも海岸線が陸よりに下がっており、砂礫層(されきそう)という海底の砂が重なって出来た土地が広がり、今の博多全域を形成しています。
その為に博多一帯は水を含みやすい土壌になっており、一見すると通常の土に見えても大量の地下水を含んでいる場合があります。
似たような土壌の埋立地等では、地震が起きた際に液状化現象が起こり、水が地表に噴き出して地盤沈下を起こす原因にもなります。
今回の陥没事故現場となった博多駅周辺も地下水を含んだ砂礫層が広がっていた事が考えられ、トンネル工事を行う深さが不十分だった可能性が考えられます。
現状、岩盤及びその上にある不透水層という水を通さない粘土層に亀裂や断層があった事が確認されており、行政には今後の速やかな調査と対応が求められています。
まとめ
- 博多駅前道路陥没事故は、地下鉄工事をしていた現場に地下水が流入したのが原因。
- 工事現場の上にあった岩盤が何等かの原因で傷ついていた。
- 工法や状況などから、工事前の調査不足が疑われる。
- 博多駅前の土壌は水を含みやすい。
参考サイト