日々通勤や通学の足として利用する電車ですが、事故が起これば長時間運休する事を余儀なくされ、利用者は交通手段に困ってしまいます。
特に人身事故は不幸にも列車に轢かれた人だけではなく、長時間の遅延により経済面でも大きな影響を及ぼします。
国土交通省によると平成27年度にホームから落下したり、ホーム上で電車に接触したりした人身事故は自殺を除いて全国で198件も起きています。
ホームから落ちた人数は3,730人(平成26年度)にも上り、1日10人に近い人数が全国のどこかで駅のホームから転落しています。
2016年12月12日には大阪府のJR新今宮駅にて女性2人が背中を押されて、うち1人が突き落とされる事件が発生しました。
犯人と被害者に面識は無く、無差別にホームにいた人を狙った通り魔的な犯行であったとみられています。
酔って転落してしまう、歩きスマホ、ケンカ、通り魔…など駅のホームは転落・接触による人身事故が多発しており、誰にとっても注意を怠れば危険な場所であることは間違いありません。
そこで鉄道各社は自動で開閉する可動式ホーム柵・ホーム扉を取り付けて、人身事故の発生確率を下げる努力をはじめました。
その中でも最新式となる「昇降式ホーム柵」を中心にご紹介します。
ホーム柵・ホーム扉とは
ホームから人が転落するのを防ぐ
従来、駅のホームは視覚障害のある方々から「欄干のない橋」と呼ばれるように転落対策を十分には行っていない危険な場所でした。
意図していなくてもよそ見や追突によって転落してしまうケースがあります。
特に通勤ラッシュの時間帯では電車との接触事故を起こす可能性が高く、早急な対策が必要とされてきました。
国土交通省も利用者数が多い駅には設置するように働きかけています。
そこで導入が始まったのが可動式ホーム柵およびホーム扉です。
ホームから線路に対して柵や壁を設ける事で人の転落を防ぎ、電車の扉と連動して乗降時だけホームの扉が左右に開きます。
この方式の弱点は、電車の規格が変わると柵の位置も変更する必要がある事や、扉を動かす関係から設備が大型化し工事に多大な時間と費用が掛かるという点です。
1駅あたり数億円の設置費用がかかってしまうことや、複数の会社が乗り入れるホームの場合は電車によって扉の位置が違うこと、電車は朝早くから深夜まで毎日運転されているので工事の時間がなかなか取れないことなどが普及を遅らせる原因でした。
昇降式ホーム柵とは
最新式の比較的安価な転落対策
JR西日本はこの問題を解決するべく、比較的安価で手早く設置できる「昇降式ホーム柵」を導入し始めています。
従来の左右に開くタイプではなく、柵が上下に動くタイプです。
2013年に大阪市の桜島駅にて試験運用したのを皮切りに、六甲道駅や高槻駅など他の駅でも配備を進めています。
昇降式ホーム柵はホーム全体を可動式のステンレス製ロープと支柱で囲い、電車が来たらロープを上げ柵全体が高い位置に上がります。
こうする事で電車の種類による扉の位置違いに関係なく乗り降りできるようにしたものです。
ホーム柵の支柱にはセンサーが組み込まれており、人が接近すると離れるように音声で警告してくれます。
ロープが昇降する時にも警告の音声が流れるようになっています。
ただ、産経新聞の記事によると視覚障碍者の方にはホーム柵の音声による案内は不安を与えるという意見もあり、点字ブロックの併用や他の利用客による協力の必要性が問われています。
運用面の対策は必要ですが、直接転落に繋がる可能性を軽減できるという意味では昇降式ホーム柵は役割を果たしてくれる事でしょう。
今後も鉄道各社による転落事故防止対策に注目が集まります。
まとめ
◆ホームからの転落事故・ホーム上での接触事故は命に関わる事態になり、他の利用者にも遅延といった問題を招く
◆従来の可動式ホーム柵は大掛かりで設置が難しい
◆昇降式ホーム柵は設置が比較的容易で、今後の転落事故防止に貢献する事が期待される
参考サイト
ITmediaビジネスONLiNE 昇降式ホーム柵は転落防止の救世主となるか (1/3)産経新聞
JR西日本 ニュースリリース
国土交通省「鉄軌道輸送の安全にかかわる情報(平成27年度)」
国土交通省「ホームにおける人身障害事故の件数(平成26年度)」