2016年7月29日、映画「シン・ゴジラ」が公開されました。
8月中旬の時点で累計230万人以上もの人が鑑賞し、日本で作成されるゴジラ映画としては12年ぶりながらも特撮映画の王道作品としての貫禄を示しました。
この映画「シン・ゴジラ」ですが作成にあたって自衛隊や内閣の災害関連法律に則った動きについて出来るだけ現実的になる様に考慮されて作られたと言われています。
そこで、複数回に分けて「シン・ゴジラ」がリアルに描写している防災・有事関連の描写を検証してみました。
一点、ご注意。
今回の連載には映画「シン・ゴジラ」のネタバレが多数含まれています。
まだ、映画「シン・ゴジラ」を観られていない方は、ぜひ鑑賞されてから読まれる事をおススメ致します。
災害発生から対策実施までの流れ
行政が動くには手続きを常に行う
この映画で驚いた点は、冒頭から東京湾という人口が密集した場所でゴジラが影響を示し始める点です。
ゴジラの及ぼした水蒸気爆発が付近を通る東京湾アクアラインと漂流船を捜索していた海上保安庁隊員を巻き込んだところからストーリーが始まります。
東京湾アクアラインのトンネルが崩壊し利用していた人々には直ちに避難が指示され、付近にある成田・羽田空港に対して離着陸の停止処置が行われる点は、地震などの災害があった時と同じような処置になっていると言えます。
このような大きな災害や事件が発生すると、日本政府の内閣府情報調査室にある「内閣情報集約センター」という24時間体制で情報を収集している機関へ事故・災害の情報が集められます。
この時、各関係部署や公共機関およびマスコミなどからも情報が収集されます。
情報を受け取り危機管理を指揮するのは本来は「内閣官房副長官補」ですが、劇中では長谷川博己さん演じる内閣官房副長官が担当していました。
そして危機管理の責任者として方法を共有するのは彼の上司となる内閣官房長官と内閣総理大臣です。
映画ではそれぞれ柄本明さんと大杉連さんが演じています。
これに伴い、官邸対策室および緊急参集チームという緊急事態に対する初動対処を行う各省庁の局長級の人員が集められ政府の対策本部が設置されます。
これは1995年・阪神淡路大震災の教訓から、災害発生直後の情報をまとめる機関がなかった事と、迅速に情報を内閣へ伝達し活用する体制が出来ていなかった事から誕生した機関です。
その為、緊急参集チームは緊急事態が発生してから30分以内に首相官邸地下にある危機管理センターへ集合する手筈となっています。
映画「シン・ゴジラ」でも主人公の矢口官房副長官(長谷川博己)を含む閣僚へ第一報が届き、迅速に必要なメンバーが集められ、災害対策基本法に基づき内閣総理大臣(大杉連)を長として官房長官(柄本明)ら内閣官僚が主要メンバーとなる緊急災害対策本部を設置するかの閣議が始められます。
ちなみに、災害対策基本法の範囲内で対応出来るとされる災害に対しては、防災担当大臣を長とする非常災害対策本部が設置されます。
これとは別に各都道府県の現地災害対策本部があり、映画「シン・ゴジラ」の劇中でも東京都が立ち上げています。
これも国の緊急災害対策本部の指揮下に入りますが、彼らも現地で持てる権限を最大限に活用する事が出来るようになっています。
国の設置した「緊急災害対策本部」と、都の設置した「現地災害対策本部」の一番の違いが出た点としては、防衛省・自衛隊に対して何処まで要請出来るかという点でしょう。
都が要請出来るのは、警察消防による災害対策及び自衛隊に対する治安出動及び災害派遣要請までになります。
過去には鳥獣駆除の名目で北海道や東北の自治体が漁師の邪魔をするトドの駆除を要請し、射撃訓練の名目で空自のF-86F戦闘機が機銃掃射をおこなったり、陸自の重機関銃で射撃を行ったりしています。
ただ、災害派遣には武器使用の規定が法律で明確にされておらず訓練名目とされている部分もあったので「シン・ゴジラ」では都からは武器の使用規定がある治安出動の要請が行われています。
では、国の緊急災害対策本部は何処まで出来るのでしょうか?
災害対策基本法とはなに?
日本で起こる非常事態に対する指針となるもの。
災害対策本部を設置する段階から「災害対策基本法」が行動の指針となります。
この法律は1959年の伊勢湾台風がきっかけでできました。
当時、行政による防災対策が充分ではなく甚大な被害を出した事から、政府が迅速に災害対策活動を行えるように作成された法律です。
ここで重要となるのは、災害緊急事態に対する処置として内閣総理大臣が中心となる緊急災害対策本部の設置を行える点です。
これにより、国が一元的に緊急事態に対する指揮を行う事が出来る様になりました。
更に内閣総理大臣は「災害緊急事態」を布告する事で、金銭の債務を延長させたり物資の供給を制限させたりするといった権限を法律に基づき行使できる様になります。
「シン・ゴジラ」では首都機能が停止して経済的に多く打撃を受けている事に対する緊急処置として布告されたと描かれています。
最終手段としての自衛隊
治安出動と防衛出動の違いは?
「シン・ゴジラ」の劇中では東京都知事が治安出動の要請を行っているのに対して、内閣総理大臣は防衛出動の超法規的な発令を行いました。
理由として考えられるのは、治安出動では武器の使用を相手がどれだけ危険なのかという点で制限されていて、原則として警察官職務執行法に準拠する為に積極的な武器の使用が出来ません。
対して防衛出動の場合は武器の行使が出来るとされており、積極的に自衛隊の最大能力を発揮する事が出来ます。
ただ、防衛出動の対象は“外部からの武力攻撃”があった場合と自衛隊法第76条に明記されていて、劇中でも防衛出動の命令を出すか総理大臣が苦悩するシーンが描かれています。
ちなみに派遣命令が出される前に、すでに自衛隊員が避難誘導を行っているシーンがありました。
あれは「近傍災害派遣」と言われるものでしょう。
災害が発生した際に部隊長の許可さえおりれば、行政からの正式な要請・命令がなくとも素早く近くの被災している人々を助けに行ける規定があるのです。
これも阪神淡路大震災を教訓に作られた新しい規定です。
「シン・ゴジラ」は非常に細かく現実に即して自衛隊の対応を描かれた映画であると評価出来ます。
対象となるゴジラの能力や意図が分からない中、実際に判断を下すのは非常に難しい事です。
それでも「防衛出動」という重い命令が劇中で出されたのは、自衛隊以外にゴジラに対抗出来る能力を持つ組織が日本に無いという判断から出た結論でしょう。
映画「シン・ゴジラ」では政府が未知の災害と言えるゴジラに対してどの様に対処して行くのかが詳しく描かれていますが、その裏で実際にぶつかると考えられる法律の壁がしっかり描かれているからこそリアリティがあると感じられるのです。
まとめ
- 緊急事態が起こった際には内閣府へ情報が早急に集められ、対策本部が設置される
- 事態が大きい場合は、内閣総理大臣に大きな権限が委託される
- 自衛隊は最期の砦