「MD」、「ICBM」、「SLBM」、「トマホーク」、「B-1」、「SM3」、「PAC3」、「THAAD」、「イージス・アショア」、「ロフテッド軌道」、「飽和攻撃」、「EMP攻撃」などなど、緊迫する朝鮮半島情勢を伝える連日の報道にさまざまな軍事用語が使われています。
これらの用語は、兵器(システム)の名称であったり、戦い方であったりとその意味はさまざまです。
新聞などでは、例えば「大陸間弾道ミサイル(ICBM)」などのように略語と訳語が併記されており、さらに用語の解説欄を付け加えていることもあるので一般読者に理解しやすいよう配慮されています。
ただ、もともと軍事の専門用語であるために普段なじみが薄い言葉も多く、またこれほど種類も数も増えてくると、ニュースを見ながら「アレ!この略語どういう意味だったかな?」、「似たような言葉だけどどう違うんだろう?」といった具合に少々混乱することもあるかもしれません。
また、「そもそもどうしてこのような呼び方をするのか?」などという素朴な疑問を持つこともあるでしょう。
そこで今回は、報道記事を読むときに少しでも参考にしていただくため、用語の基礎知識についてその一例を紹介します。
ミサイル防衛に関連した用語について
①「MD」とは
「MD」とは、「ミサイル防衛システム」のことでミサイル・ディフェンス(Missile Defense)の頭文字を取ったものです。
MDの迎撃対象としての弾道ミサイルは、目標まで届く距離(射程)によって名称が区分されており、IC(Intercontinental大陸間)、MR(Medium Range中距離)、IR(Intermediate Range準中距離)、SR(Short Range短距離)、そのなかで潜水艦から発射できるものにSL(Submarine Launched潜水艦発射)をそれぞれBM(Ballistic Missile弾道ミサイル)の文字の前に付けた表記になっています。
日本のMDの現状は、大気圏外の長射程用として海自イージス艦搭載の迎撃ミサイル「SM3」と大気圏内の短射程用の空自対空ミサイル「PAC3」の2段構えの態勢になっています。
この態勢をさらに強化するため調査対象として最近報道されているのが、「イージス・アショア」と「高高度防衛ミサイル(THAAD)」と呼ばれる長射程用の迎撃ミサイルです。
②「SM3」とは
「SM3」とは、「スタンダード・ミサイル(Standard Missile)3型」の頭文字を取ったもの。もともとイージス艦には、敵の航空機や艦艇から発射される対艦ミサイルや航空機そのものを目標とした対空ミサイルとして「スタンダード・ミサイル」が装備されていましたが、弾道ミサイルに対処(MD)できるようにしたものが「SM3」です。(「SM3ブロック2A」とは、その改良型の名称)
※これと似た「SAM」という略語が出てくることがありますが、「Surface-to-Air Missile」の頭文字で「地対空(又は艦対空)ミサイル」の意味ですので間違わないようにして下さい。
③「PAC3」とは
「PAC3」とは、「パトリオット能力向上型(又は改良型)」という意味の「パトリオット・アドヴァンスト・ケイパビリティー(Patriot Advanced Capability)」の頭文字を取ったもの。新聞記事には「地対空誘導弾パトリオット(PAC3)」などと記されています。
「パトリオット」とは「愛国者」という意味ですが、使用されているレーダーの名称(細部略)から頭文字を取っています。湾岸戦争で使われた旧型「PAC2」を改良したものが「PAC3」で、2型は目標の近くで弾頭を爆発させる方式、3型は目標に直撃させる方式の違いです。本来、対航空機用に開発されたものなのでミサイル迎撃には3型が必要なわけです。
④「イージス・アショア(Aegis Ashore)」とは
「イージス・アショア(Aegis Ashore)」とは、「地上配備型イージス・システム」のこと。
もともとイージス艦搭載(海上配備型)のシステムを地上配備型に変えたもので、「海から陸に上がった(上陸した)」というイメージから「Ashore(岸に、陸に)」という言葉が使われていると思われます。
⑤「THAAD」とは
「THAAD」とは、「Theater High Altitude Air Defense」の頭文字から取ったもの。
新聞記事には「高高度防衛ミサイル(THAAD)」などと記されており、最初の文字Tの意味「戦域(シアター)」という言葉が省略されています。
※「戦術~」、「戦域~」、「戦略~」という言葉があり、「戦術核」や「戦略爆撃機」などのように使われています。ミサイルの場合は、その射程の違いによって区分されているのが一般的。
まとめ
・軍事用語の直接の意味と言葉の由来などを知ると理解しやすい
・一つの用語から関連事項(できれば全体像)も含めて理解しておくと知識の整理がしやすい
参考資料
◆『アメリカの軍事戦略』江畑謙介著(講談社現代新書)1996年8月刊