9月の新聞紙面に「北朝鮮をめぐる各国の主な兵力状況」という見出しの記事が出ていました。
これは毎年出されている防衛白書(平成29年版は29年11月発売)を基にして、陸上兵力「○○万人」、艦艇「○○隻」、作戦機「○○機」といったように図表でまとめたものです。皆さんも同様の記事を見たことがあると思います。
そこで今回は、このような記事を見るときに「どのようなことを基礎として知っておく必要があるか?」について考えてみます。
基礎知識 - ③
「軍事力(防衛力)は兵員・兵器の数だけでは分からない。」

陸上自衛隊HPより
兵員や兵器の数量だけでは軍事力を単純に比較することはできません。
まず軍事力はどんな「構成要素」からできているのかを考える必要があります。
軍事力を構成する要素には、目に見えるものと見えにくいものがあり、次のように分けてみます。
目に見える要素(有形的要素)としては
①部隊や兵員の数
②兵器の種類・数量(性能の一部を含む)
③航空基地や軍港など関連施設
④国防費などです。
それに対し目に見えにくい要素(無形的要素)としては、
①兵員の質
②兵器の質
③指揮官以下の部隊(集団)としての質
④訓練の質
⑤戦術の質などとなります。
そのほかコンピュータでいえば「ソフトウェアー」にあたる要素として
①指揮・統制・通信・COMP・情報能力(C4I)
②国の意思決定システムと法的根拠(有事法制)
③軍事戦略(軍事力の整備・行使に関する基本的な考え方)などがあります。
「兵員の質」とは、過酷な条件にも耐えうる体力・気力、旺盛な士気と規律心、ハイテク兵器を熟知し使いこなせる知力・技術力などの基礎的な能力が含まれています。
「訓練の質」には、例えば戦闘機操縦士の訓練でいうと「年間飛行時間」がバロメーターとして挙げられています。その実態は国によってかなり差があるようですが影響を及ぼす要素の一例です。
さらに「可動率」という要素もあります。
(※一般には「稼働率」と表記しますが、自衛隊用語では「可動率」としています。)
例えば、ある兵器の可動率を80%以上維持できるA国と、50%にも満たないB国があるとします。
この場合、B国の装備数のうち実際に動かせるのは半数以下ともいえます。
また、兵器の新旧タイプの割合や航空機などの近代化改修済みの割合などによっても違ってきます。
※「近代化改修」とはレーダー等の電子機器や武装などを新しいものに換えて能力を向上させること。
基礎知識 - ④
「現代戦はネットワークの戦い」
現代の戦闘においては、各種兵器をネットワークで結んだシステムができているかいないかが戦力の優劣を決める非常に重要な要素になっています。
つまり、そのシステムがある国とない国が戦っても、ほとんど勝負にならないといってもいいほどの差があります。
これは過去のNATO軍による実戦例でも明らかになっています。
例えば、米軍の航空戦闘などでは、偵察衛星から送られてきた敵基地周辺などの情報により、早期警戒管制機(AWACS)が敵機をまだ遠い距離の位置から早期に探知し、味方の戦闘機を最適の空域に誘導し戦闘を指揮管制するという組織的に戦える体制です。
海軍の空母、イージス艦、潜水艦などの各種艦艇も同じように衛星、航空機、地上の軍司令部などとネットワークで情報を共有し、あるいは指揮を受けながら行動しています。
陸軍の場合も同様にネットワークでつながっており、各部隊指揮官の迅速な判断や戦闘指揮を容易にしています。
以上、軍事力を構成する要素の一例とネットワークについてお話ししました。関連記事を読みながらさまざまな視点で考えるきっかけにしてもらえればと思います。
ただ新聞だけでは分からないことも多いので、是非本を読むことも併せてお勧めします。
まとめ
・軍事力は兵員や兵器の数だけでは比較不可能
・軍事力の構成要素を考えてみることが必要
・現代戦はネットワークの戦い
参考文献
◆『軍事力とは何か』江畑謙介著(光文社)1994年
◆『常識としての軍事学』潮匡人著(中公新書ラクレ)2005年
◆『現代の軍事学入門』志方俊之著(PHP研究所)1998年