2014年8月20日「平成26年8月豪雨」と気象庁に名付けられた大雨により、広島市北部の住宅地に山から崩れた土砂が流れ込み、死者77名・負傷者44名という被害を出しました。
大勢の犠牲者を出した広島県土砂災害ですが、いったいどの様な経緯で発生してしまったのでしょうか?
そして、土砂災害が発生した初期の行政による防災対応はどのようなものだったのでしょうか?
今後の防災に活かすために、その流れを追ってみました。
土砂災害発生の経緯
異例の大雨と土地の特性が災害を招いた
1999年6月29日に大雨が原因で起きた広島県での土砂災害を受けて制定された「土砂災害防止法」により県内約1万2000か所が土砂災害警戒区域として公表され、それを含めた約3万2000か所が危険な場所として知らされていました。
しかし広島市は十分な避難計画を作るまでには至っていませんでした。
それから15年後の2014年8月、広島県を含む中国地方は例年にない大雨が続き、広島市安佐北区にある観測所では8月1日から発生前日までの19日間で264.4ミリの雨を記録していました。
これは平年に比べ100ミリ以上多い雨量です。
その為、すでに発生前日には地盤が緩んでいました。
広島市北部の土地はマサ土(真砂土)と言われる花こう岩が細かくなって出来た砂が多く、もろくて崩れやすい性質でした。
住宅街の一部は、過去に土砂崩れが発生していた場所を舗装して作られていたそうです。
そして、未明に災害が発生してしまいます。
19日夜から20日にかけて広島県上空では秋雨前線という気圧の差からくる暖かい空気と冷たい空気の壁が出来ており、バックビルディング現象という雨雲が次の雨雲を続々と形成していくという現象が起こりやすい状態でした。
19日夜には広島市中心部でも9,400棟の家屋が停電し、1時間に41.5ミリという激しい雨による道路の冠水が起こっています。
ちなみに気象庁によると1時間で30ミリ以上の雨が降った場合は「激しい雨」と表現し、人の受けるイメージは「バケツをひっくり返したような雨」となります。
さらに翌20日の午前1時~4時までの間に被災した地域では150ミリもの猛烈な雨が降った事が記録されており、これが土砂災害を引き起こす直接的な原因となっています。
この記録的な豪雨は、のちに気象庁より「平成26年8月豪雨」と特別に命名されるほどでした。
そしてついに午前3時20分~40分の間に住宅街裏の山が崩れて土砂災害が発生しました。
4時20分には近くにある根谷川が氾濫を起こしました。
これにより330棟の家屋が損傷して4,100棟以上が浸水しました。
災害への初期対応
発生した後の対応が遅れて被害を拡大した
土砂災害が発生する直前の20日午前1時15分の段階で、気象庁は広島県に「土砂災害警戒情報」を発表していました。
しかし午前3時20分に土砂災害発生の最初の通報があったものの、広島市から住民に対して避難勧告が出されたのは午前4時15分でした。
前日より大雨・洪水警報が発令されていたにも関わらず、対応が遅かったと言えます。
対応が遅くなった理由の一つに、夜間に大雨の中で避難するのは危険を伴うという点が考慮された面があります。
がしかし、1999年6月29日の広島県土砂災害の教訓を活かした避難計画を作れていなかった事は大いに問題です。
また根谷川の氾濫といった河川の増水対応に職員が大勢必要となり、地元職員だけでは対応出来なくなっていたという問題もありました。
しかし、それでも広島市の災害対策本部が当日の午前3時30分に設置されたという事実は、事態の推移やその後の被害を考えると「遅すぎた」としか言えません。
午前4時20分には政府が首相官邸の危機管理センターに情報管理センターを設置して災害の拡大に備え、10分後には警察庁が災害情報連絡室を設置しました。
午前6時30分に広島県知事から自衛隊に災害派遣要請があると、6時40分には近隣各県警へ広域緊急援助隊の派遣を要請しています。
現地の役所職員や警察・消防・自衛隊が到着し救難活動を行う中、午後12時30分には広島県知事から消防庁への要請を受けて近隣都道府県から緊急消防援助隊の派遣が決まりました。
国土交通省も防災大臣の要請により中国地方整備局より災害対策現地連絡員と緊急災害対策派遣隊という災害対処の専門チームを派遣しました。
これが広島県土砂災害における初動対処の流れですが、ここで注目すべきなのは広島市の対応の遅れと救難の主役が警察・消防であるという事です。
この災害時は、時期により派遣人数が変動しますが、自衛隊が800人ほどで活動していたのに対して警察は1,000人以上の人員を出して救難に当たっています。
消防も20日の段階で消防団を含めて1,170人の職員で救難活動に当たっていて、すぐに駆け付ける即応性を示しました。
広島県土砂災害の発生経緯は過去の教訓を活かせていない点が見受けられます。
市の災害対策初期対応も迅速とは言えませんでした。
次回は、2014年広島県土砂災害における救難活動の実情と被災後の流れについて調べます。
まとめ
- 2014年広島県土砂災害では発生前日から続いた豪雨が災害を引き起こした
- 広島市北部は元から土砂災害が起こりやすい土地で、過去にも土砂災害は発生していた
- 広島市の災害対策と警報の発令が遅れた
- 救難の主役は警察・消防が担った