突発的に発生する爆発や火災、あるいは銃乱射テロなどに遭遇した時、とっさに「伏せる」、少しでも安全な所へ「移動する」、機を見て「現場から脱出する」などの対応が考えられますが、いずれも「姿勢を低くする」、「低い姿勢を維持しながら移動する」ことが、有毒の煙・爆風・飛散物・流れ弾などの危険から身を守るための基本です。
今回は、低い姿勢で素早く脱出する方法として「生存術」の一つでもある「ほふく前進」について紹介します。
「ほふく前進」とは、どのようなものか?
まず「ほふく前進」について簡単に説明します。
「ほふく」は「匍匐」と書きますが、「はう」と「伏せる」を表す文字の組み合わせで「腹ばう。手をついてはう。」という意味です。
自衛隊で訓練していた当時は、次の4種類の要領を状況に応じて使い分けていました。
①「第1ほふく」:足腰を地面につけ片腕を伸ばして上体を支える半身姿勢。くの字に曲げた脚部と片腕をうまく使って前進する方法。
横向きに寝ている体勢から片腕で上半身を斜め45度ほど起こした姿勢。
②「第2ほふく」:さらに低い姿勢にするため、片腕をまげて肘を地面につけた半身姿勢。くの字に曲げた脚部と片肘をうまく使って前進する方法。
③「第3ほふく」:さらに低い姿勢にするため、両肘を地面につけた腹ばい姿勢。両肘と両脚部をうまく使って前進する方法。
④「第4ほふく」:最も低い姿勢で、完全な腹ばい密着状態。顔も横に向けて地面に触れる程低くする。両手両脚をうまく使って地面にへばりつきながらゆっくり前進する方法。
「ほふく前進」を活用した脱出方
次に「ほふく前進」を活用した脱出法についてホテル火災を想定して紹介します。
「煙を吸い込まないようにして、いかに素早く非常口へ移動できるか」がポイントです。
火災が起こった時、多くの人が煙(煙に含まれる炭酸ガス)に巻き込まれる事が原因で被害を受けます。
例えば、宿泊していたホテルで夜中に火災が発生したため、部屋から非常口方向へ脱出する時に、火元が分からず煙が廊下に立ち込めており、床面付近のわずかな空間を除き大部分を覆っていて、更に窓側からの避難は出来ませんでした。
この様な時、
①脱出のための身支度をします。同時に脱出要領を家族で確認します。
服の着替え、最小限の物品携行(背負う又は縛り付ける)ゴーグルやマスク、手袋、水で濡らした帽子(タオル)があれば、身に付けましょう。
脱出する時は、できるだけ両手を空けて自由に使える状態にしましょう。
②部屋のドアを開け煙の状況を再度、認後してから、「ほふく前進」で移動を開始します。
煙の流れる方向(=火元と逆方向)や床面からの高さ(=空気の層)を確認後、煙を吸い込
まないように、また家族が離れないように注意しながら前に進みます。
空気の層は、床面から約20~30cmといわれているため「第3ほふく」が適当です。
③移動は廊下の壁伝いに行きます。
暗闇など悪条件下でも壁沿いに進めば非常口に到達できます。
なお、ホテルなどに泊まる時は、
・到着後すぐに非常口の位置・経路・距離
・寝る前に脱出時の服装・携行品
などを確認しておく方が良いですね。
「ほふく前進」の日常トレーニング法
普段の生活の中では、「ほふく前進」の姿勢や動作を行うことがあまりありません。
そこで、日常の細切れ時間を活用したトレーニング法(1~3分以内)の一例を紹介します。
・朝起きた時、簡単な体操を兼ねて「第3・4ほふく」をやってみましょう。
・散歩を時、補助運動を兼ねて芝地などで10~20mほどの距離をほふく前進してみます。
・寝る前に、広い床面で全方向(前後左右斜め)に「ほふく姿勢」で移動してみましょう。電気を消した状態でやってみるのも良いですね。
早速、今日から子供さんと一緒にトレーニングを始めてみてはいかがでしょうか。
まとめ
・「ほふく前進」には種類があり、状況に応じた活用法を練習しましょう
・火災現場から脱出する場合、煙の特性からも「ほふく前進」は有効な方法
・「ほふく前進」のトレーニングを日常生活の中に組み入れて家族全員の能力を高めておく