寒い日、温かいお風呂に浸かると一日の疲れが癒されますよね。ところが、お風呂で毎年約5,000人の方が溺れて亡くなっているのをご存知ですか?筆者が救急隊員として活動していた際も、自宅のお風呂や公衆浴場に沈んで意識を失っている…風呂場で溺水(できすい)している、いわゆる「風呂溺(ふろでき)」の方に対処するというケースをかなり経験しました。ではなぜ、海や川でなくお風呂で多くの方が溺れてしまうのか。今回はその理由と予防策についてご紹介したいと思います。
人間の身体は自律神経によって支配されている!

本題に入る前に、少しだけ「自律神経」について触れたいと思います。自律神経とは、様々な内臓器官の働きを調節している神経で、私たちの意思ではコントロールできないものです。自律神経は、活動時に活発になる「交感神経」と、休息時に活発になる「副交感神経」の2種類があり、これらがシーソーのように常にバランスをとりながら働いています。
交感神経は活動時に活発になるものですから、十分に身体を動かせるように心拍数を上げたり、四肢の末梢の血管を収縮させて全体の血圧を上昇せるように作用します。反対に、副交感神経はリラックスしている時や飲食時に作用し、消化器の活動を活発にするほか、心拍数を減少させたり、血管を広げることにより血圧を下げる働きをします。
飲酒して入浴するのは危険!

それでは、飲酒後にお風呂に入るとどうなるのでしょうか。お酒を飲むと、アルコールの作用により一時的に血管が広がり、血圧は下がる傾向になりますが、心臓がドキドキ感じるように心拍数は増加するため、ある程度の血圧は維持されます。
酔いが覚めないうちに入浴すると、外部からの温熱作用によって末梢の血管はさらに広がるとともに、副交感神経が興奮することで心拍数は減少。血圧は降下していき、脳への血流が少なくなることで、意識が朦朧となります。この、失神一歩手前の状況を「眠気」と感じるのですが、このまま意識を失うと入浴中の溺死となってしまう危険が高いのです。
日本の浴槽は海外のものより比較的深いつくりとなっており、熱めのお湯に肩まで浸かるという入浴スタイルが多いことから、意識を失うと溺れやすいそうです。
ヒートショックにも注意!

ヒートショックとは、温度変化に伴う血圧の変動により、心疾患や脳卒中などの疾患を引き起こすものをいいます。脱衣場が寒いと、身体から体温が奪われるのを防ぐために末梢の血管を収縮させ、血圧は上昇します。しかし、直後に熱いお湯に浸かると、今度は急激に血圧が低下します。このような血圧の急な変化は致死的な不整脈を発生させるほか、血管を破綻させたり失神の原因となるのです。
脱衣場と浴室の温度差が大きいとシートショックの原因になるので、脱衣場を温めたり、お風呂の湯温を低めに設定するなどしましょう。また、入浴により発汗すると、血液が濃くなって血管が詰まりやすくなるため、適度に水分を摂るようにしましょう。
まとめ
・食後や飲酒後の入浴は特に注意。
・浴室と脱衣場の温度差を小さくする。また、湯温は低めに設定する。
・入浴の前後に、適度な水分補給をする。