2016年11月15日、南スーダンPKOへ交代部隊として派遣される陸上自衛隊第9師団の任務に関して、新たな任務として「駆けつけ警護」を付与する事が閣議にて決定されました。
南スーダンに派遣されている自衛隊の部隊は「施設科」という道路工事等を行う部隊が中心で、2012年からインフラ関連の整備を行っています。
今回も主任務に変更はなく、「駆けつけ警護」は非政府組織関係者が襲われていて自衛隊以外に対応出来ない場合に限られる…という前提条件があります。
現在、南スーダンでは武装勢力によって病院やホテルなどに襲撃が行われる事件があり、どの様な国の組織でも必ず安全とは言えません。
自衛隊の「駆けつけ警護」が必要と考えられた南スーダン情勢と、そもそもPKOとは何かを説明します。
PKOとは
国連が政情不安定な地域の平和を維持

南スーダンの国連軍 Aekkaphob / Shutterstock.com
PKOとは「平和維持活動(Peace Keeping Operation)」の略で、正式には「国際連合平和維持活動(United Nations Peacekeeping Operations)」と言います。
国際連合憲章第1章に定められる「国際の平和及び安全を維持する」という目的を達成する為に、加盟国の軍隊を紛争当事国に派遣し武力活動の監視やインフラ整備などの地域平和を維持する為に必要な人道支援処置を行う事を目的としています。
PKOでは武器の使用に関して厳しい制限があり、自衛と平和維持活動の継続の為に限られています。
世界で初めてのPKOは1948年から翌年に掛けて行われた第一次中東戦争(パレスチナ戦争)の停戦後の1949年5月29日にアラブ諸国とイスラエルに派遣された国際連合休戦監視機構(UNTSO)で、この活動は60年以上経った現在も継続中です。
また1956年11月15日には第二次中東戦争(スエズ危機)にて渦中にあったスエズ運河の安全な通行を実現する為に、紛争当事国の合意を得て国際連合緊急軍(UNEF)という国連主導の軍隊を派遣し事態の解決に貢献しています。
この部隊を提唱したカナダの外相レスター・B・ピアソンは1957年にノーベル平和賞を受賞しました。
日本の自衛隊からは1992年の国連カンボジア暫定機構への派遣を皮切りに、合計14回の派遣を行っています。
主な任務は現地のインフラや学校再建といった人道支援目的の任務で、建設等を任務とする施設科部隊や医療関連を担当する衛生科部隊が派遣されています。
PKO以外で国際貢献のために自衛隊が海外派遣された例としては、海外の災害時などに派遣される国際緊急援助隊の自衛隊チームやイラク戦争時の復興人道支援活動があります。
いずれも武力を行使するための派遣ではありません。
ではなぜ今回は武力行使する可能性がある「駆けつけ警護」が閣議で認められたのでしょうか?
その理由を知るためには、派遣先である南スーダンの情勢・歴史的背景を理解する必要があります。
南スーダンPKOの歴史
独立を争点とした紛争地帯のPKO活動
2011年7月9日スーダン共和国から独立を果たした南スーダン共和国の平和と安全を確保する為、「国際連合安全保障理事会決議1996」にて「国際連合南スーダン派遣団(UNMISS)」の派遣が決まりました。
これを受けて日本も2011年11月15日に当時の野田佳彦内閣総理大臣を中心とする閣議にて自衛隊のPKO参加を決定しました。
自衛隊は南スーダンの首都・ジュバでの人道支援活動を中心に活動しており、前述の通り道路工事等を行う「施設科」が主に活躍しています。
南スーダンでは、現在も散発的に戦闘が継続しています。
2013年12月14日にはクーデター未遂事件でインド軍派遣部隊が襲撃されるという事態が発生しました。
この時は日本の自衛隊が戦闘に参加することはありませんでしたが、付近で戦闘に備えていた韓国軍からの要請で実弾1万発を提供することになりました。
間接的とはいえ他国の軍隊に武力行使のためのバックアップを行うという、想定外の事態が起こっています。
最近では2016年7月8日~11日の間、首都ジュバで発生した大規模な戦闘に国連職員や施設が巻き込まれる事件が発生しました。
この時、PKOの平和維持部隊は武器の使用に関して厳しい制限があったこともあり、戦闘には全く対応出来なかったという問題が発生しました。
今回自衛隊に「駆けつけ警護」が必要とされる背景には、現地で活動する非政府組織(NGO)に日本の団体も多くあり、緊急時に必ず他国の軍隊が守ってくれるという確信が得られないという現状を踏まえたものなのです。
武装するとかえって襲われるのでは……という意見も多々ありますが、すでに南スーダンでは非武装の国連職員がホテルで襲撃される事案も発生しており、現地からも安全を確保する手段の必要性が問われていました。
自衛隊による「駆けつけ警護」は、あくまで襲撃を受けたり戦闘に巻き込まれたNGOや建築・医療関連などの非戦闘員を「警護」する役割であり、現地の過去事例を踏まえた現実的な対応であると言えると思います。
11月20日からいよいよ派遣される自衛隊の交代部隊が現地の平和維持へと貢献して、ケガもなく帰還してくれる事を心から祈ります。
まとめ
◆PKOとは、地域の平和を維持する為に派遣される国連主導の多国籍軍隊による活動。
◆南スーダンの情勢は厳しく、現地で活動する日本のNGOなどの安全を確保する為に「駆けつけ警護」がやむを得ないと判断された。