池で溺れている子供を見かけた時、あなたならどうしますか?
あなたには、助ける知識と能力が有ります。
しかし、現場は「この池危険!立入るべからず」と表示してある池です。
助けに行くあなた自身も危険な目に遭うかもしれません。
それでも、とっさに助けに行きますか?
武装集団に襲われている平和のために活動しているNGO職員を見かけたら、あなたならどうしますか?
あなたには、助ける知識と武器、そしてそれを扱う能力が有ります。
助けに行くあなた自身も危険な目に遭うかもしれません。
それでも、とっさに助けに行きますか?
PKOで派遣されている自衛官が、武装集団に襲われている国連やNGOの職員、他国軍の兵士達を助ける任務、それが「駆けつけ警護」です。
今回は、この「駆けつけ警護」について考えてみたいと思います。
駆けつけ警護の経緯
12/12まもなく実施可能に

南スーダンにて punghi / Shutterstock.com
2015年9月19日に参議院本会議の可決を経て成立した「安全保障関連法」の一つである「駆けつけ警護」は2016年11月14日に閣議決定され、第11次隊(南スーダンPKO)として派遣される陸上自衛隊第9師団(青森市)を中心とする部隊に新たな任務として付与される事になりました。
要員は約350人です。
11月20日から順次現地に派遣され、「駆けつけ警護」が実施可能となるのは、第10次隊と交代する12月12日以降の予定です。
法案の必要性
自衛官に責任を押し付けない為に
駆けつけ警護の法案はどうして必要だったのでしょうか。
この法案が無い状態で同様の状態に直面した時、派遣されている隊員はどの様な行動をとるでしょうか?
「目の前で襲撃される状況を、ただ見ておく」
それとも
「現地指揮官の判断と責任のもと、法的にグレーな状況ではあるが、助けに行く」
いずれにせよ、現地指揮官は苦渋の選択をしなければなりませんし、何らかの責任を負わざるを得ない状況となるでしょう。
このような時「駆けつけ警護」に法的な根拠があれば、現地指揮官は躊躇なく行動することが出来るでしょう。
現地に派遣され頑張っている自衛官個人に責任を押し付けない為には、法的な根拠が必要だったのです。
警護実施の要件
PKO参加5原則
実際に「駆けつけ警護」が行われる時には、どの様な条件が必要なのでしょうか。
「駆けつけ警護」が行われる前提として、当然の事ながら日本がPKOに自衛隊を派遣する為に必要な5原則の条件を満たしてなければなりません。
PKO参加5原則は、
(1)紛争当事者の間で停戦合意が成立していること
(2)当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊へのわが国の参加に同意していること。
(3)当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
(4)上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
(5)武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。
の5つです。
当然の事ながら、国は事態が悪化した場合、第一義的には勇気を持って部隊を撤収させなければなりません。
ただし、撤収が間に合わない場合は一時的に武器の使用が必要となる可能性がある、それが「駆けつけ警護」です。
武器の使用要件と問題点
武器を使う義務が生まれた
武器の使用については相手が武器を向けてきた時のみ使用出来ます。
警告・威嚇射撃を経た後、刑法36条・37条で規定されている正当防衛・緊急避難に該当する場合に限定され、必要最小限の使用に留められています。
派遣された自衛官の判断と行動に対し法的根拠が出来るという事は、悩まなくても良くなった反面で「義務」が生じてくるという事でもあります。
事態の悪化に応じて適時に国としての決断がなされなければ、善かれと思い制定した法律が逆に手枷足枷にもなりかねません。
南スーダンの情勢がPKO参加5原則から外れた状況になった場合は、適時適切な判断を持って、撤収させる事も必要であると考えます。
南スーダンの情勢が好転し「駆けつけ警護」実施の必要が無くなり、隊員が全員無事に帰還することを切に願います。
まとめ
◆「駆けつけ警護」は2015年に法制化、2016年に閣議決定された
◆「駆けつけ警護」は第11次南スーダンPKO派遣隊から運用される
◆「駆けつけ警護」の前提として、日本にはPKO参加5原則がある