筆者はこれまで10年以上、ハザードマップの作成に携わってきました。作成している中で、困ったことはいくつかあります。その中で、洪水ハザードマップでは浸水ランクが、よく変わることに泣かされました。ところで、現在の浸水ランクはいくつあるかご存じでしょうか。また、浸水ランクを決める基準はどうなっているか、お分かりでしょうか。今回は、最新版の洪水ハザードナップの、浸水ランクについてお話しましょう。
各種ハザードマップ作成には手引きが存在する
各種ハザードマップは、各自治体が勝手に作っているのではありません。例えば、洪水ハザードマップであれば、国土交通省が「水害ハザードマップ作成の手引き」を公表していて、この手引きに従って作成することとなります。因みに現段階での最新版は、平成28年4月となっています。作成元は、国土交通省水管理・国土保全局 河川環境課水防企画室です。120ページに及ぶ手引きを読んで作成していくので、変更があるととても大変な作業となります。
標準的な浸水ランクは6段階!自治体では3段階表示もある
現在の手引きによる標準的な浸水ランクは、次の6段階となっています。
1:~0.5m
2:0.5m~3m
3:3m~5m
4:5m~10m
5:10m~20m
6:20m以上
この中で最も多く使われるのは、1~3までの5mまでのランクです。10m以上の浸水は、津波による浸水域として利用することとなるので、洪水ハザードマップ単独では見かけないことが多いでしょう。
0mから5mまでの定義と着色
ランクの定義として、一般的な家屋の2階が水没する5m、2階床下に相当する3m、1階床高に相当する0.5mに加え、これを上回る浸水深・津波基準水位を表現するため、10m、20mを用いることを標準とする。と、手引きではなっています。ですから、一般的には~0.5m・0.5m~3m・3m~5mの3ランクで浸水ランクは表示されます。
1:~0.5m 黄色 RGB:247/245/169
2:0.5m~3m 肌色 RGB:255/216/192
3:3m~5m 桃色 RGB:255/183/183
この表示が、ほとんどの自治体の洪水ハザードマップで利用されているはずです。中には、5m以上の浸水域がある場合にもう1ランク追加して、4ランク表示のところもあるでしょう。
ランクを勝手に変えることはNG!
手引きで決められたランクを、勝手に変更することも許可されていません。例えば、3mは2階床下と定義していて、このランクなら「自宅2階への垂直避難が可能」とされています。ですが、自治体の担当者が「いやいや、2階の床下は2.5mでしょう」と言って、ランクを2.5mにすることはNGとなっています。
色は勝手に変えられない!指定のRGBを使うこと
また、着色についても勝手に変えることはNGです。肌色と桃色は非常によく似た色合いで、一瞬だと見間違う方もいるほどです。なぜ、色を変更できないのかというと、「配色については、ISO 等の基準や色覚障がいのある人への配慮、他の防災情報の危険度表示との整合性も含めて検討し、配色を標準とする」と決まっているからです。ただし、地形図に重ねるため、このRGBを基本として変更することは可能にはなっています。ですが、多くの自治体が指定のRGBで作成しています。
詳細版も存在!こちらは8ランクで表示する
実は先の標準版とは別に、詳細版もあります。この詳細版だと、より詳しいランク表示となっていて、8ランクの設定となっています。
1:~ 0.3m RGB:255,255,179
2:0.3m ~ 0.5m RGB:247,245,169
3:0.5m ~ 1m RGB:248,225,166
4:1m ~ 3m RGB:255,216,192
5:3m ~ 5m RGB:255,183,183
6:5m ~ 10m RGB:255,145,145
7:10m ~ 20m RGB:242,133,201
8:20m ~ RGB:220,122,220
詳細版のランクを利用する際には、主に1~5ランクまでが利用されます。この詳細版を使っているのは、国土交通省が作成している「重ねるハザードマップ」です。このハザードマップでは、詳細版の8ランク表示となっています。ですが、ランク1とランク2の黄色は見た目では区別できません。ランク3とランク4の肌色も、見分けるのはなかなか厳しいです。ですから、多くの自治体では、詳細版でなく標準版の3ランク表示を使っています。
まとめ
・洪水ハザードマップは国土交通省が作成する手引きに従って作られる
・標準版は6ランク、詳細版は8ランク設定されている
・自治体で利用されるのは、標準版の3ランクもしくは4ランク
・ランク1:1階床高に相当する0.5m
・ランク2:2階床下に相当する3m
・ランク3:2階が水没する5m
・ランク4:5m以上
・着色も原則は指定のRGBを使用する