木造の耐震補強技術は、近年とても進歩しています。工事期間の短縮や工程の簡素化に加え、より優れた性能を発揮する工法が開発されています。
今回は、木造住宅における耐震補強工事の基本的な工法から最新の工法まで、その特徴をお伝えし、補強工事の際の参考にしていただきたいと思います。
耐震補強工事の基本
木造における耐震補強の原則は、「壁を強くする(壁量を増やす)」ことです。耐震性の有無は、原則、壁量が足りているか否かで判定をしますので、足りない壁量を増やし、地震に耐えうる強度を持たせることが必要です。
この「壁量」の値は壁の「内部の作り方」によって決まります。壁の内部は、木造住宅の場合、主に「筋かい」と呼ばれる斜めに掛ける部材や、「構造用合板」と呼ばれる強度を持った面材を貼るなどして、壁量を確保しています。
(壁量や筋かいについてはこちらをご覧ください→防仁学『「地震に強い建物」は何が違うの?木造住宅で考える「地震に強い建物」の特徴』)
耐震補強工事とは、壁量の計算や壁の配置バランスなども考慮して、耐震補強設計を行ったのち、補強の必要な個所について、筋かいを入れたり構造用合板を貼ったりして、強度を高めることです。
その他に、基礎の補修(ひび割れの補修、無筋基礎を有筋化など)や、劣化個所の改善(シロアリ被害個所を修繕、雨漏り個所を改善など)、屋根の軽量化(重い建物は、より多くの壁量が必要なため、建物の重さを軽くする)など、耐震補強は様々な観点からのアプローチが可能です。
工期を短縮して、工事の負担を少なく
筋かいや構造用合板による補強は基本的な工法ではありますが、工事の際、天井と床を一部剥がさなければならず、工事の手間がかかる上に工期も長く、施主の負担も大きいものとなってしまいます。
このような現状を踏まえ、近年は、そうした欠点を補うことのできる様々な耐震補強商品が登場しています。
例えば、天井も床もそのままで施工可能な「かべつよし」は、解体作業がなく、施工もシンプルなため、工期や費用を圧縮することが可能です。これまでに45,000棟を超える実績を持っています。
また、耐震性能に加えて、「揺れを制御する」ための工法(制振)も多く開発されています。昨年の熊本地震の際も、お皿一つ割れなかった家として話題になった住宅は、制振装置が入っていたということです。木造住宅では、まだまだ一般的な考え方ではありませんが、揺れを制御することで、構造的な問題はもちろん、地震の揺れに対する恐怖も軽減されますし、効果は大きいものと考えられます。
耐震工事の工法は日々、進化しています。補強工事を行う際は、設計者と十分な打ち合わせを行い、納得のいくコストと性能を選ぶことが重要です。
金額を最小限に、効果は高く
耐震補強工事のコストは、目標とする強度と選択する工法で大きく変動します。まずは、予算をしっかりと決め、その予算内でどれだけの効果が得られるのかを知ることが重要です。
しっかりとした業者さんであれば、補強の優先順位を示してくれるはずですので、その優先順位をもとに、どこまで工事を行うのかを決めましょう。(基本的には「壁量の確保」が最重要項目となることがほとんどです。)
また、上部構造評点を「1.0以上」にするのに予算が厳しいという場合は、最低限「0.7以上」にするという選択肢も考えておくとよいでしょう。(上部構造評点については、こちらの記事をご覧ください→防仁学「耐震診断、一体何をするの?意外と知らない耐震診断の内容とその効果をお伝えします!」)
地震対策は、「完璧にやる」ということももちろん重要ですが、それではなかなか腰が重くなってしまい、結果的に何もできなかったということになりかねません。そこで、「減災」という考え方を取り入れ、「何もやらない現状よりも、少しでも被害を減らす方向にもっていく」というスタンスで取り組んでみてはいかがでしょうか。
「今できること」にフォーカスし、いつどこで起きるかわからない大地震に今すぐ備えましょう!
まとめ
・耐震補強工事は、「壁量」を確保する工事である!
・様々な耐震工法が開発されているので、予算や性能などを考慮して選ぶことが重要!
・少しでも被害を減らす「減災」の考え方で、地震対策に取り組もう!
参考・引用文献、サイト
◆ エイム株式会社 NEWかべつよし
◆性能とコストで選ぶ木造[耐震工法]パーフェクトガイド / pp.42~43、pp.68~79、pp.98~109
◆検証、熊本地震で食器1つ落ちなかった住宅 /日本経済新聞・日経ホームビルダー2016.10.18記事