2017年9月5日午前11時過ぎ、羽田発ニューヨーク行きの日本航空006便(ボーイング777-300ER型機)が離陸直後に左側のエンジンから出火し羽田へ引き返すというトラブルが起こりました。
飛行機事故は離着陸時の「魔の11分」に集中していると言われますが、今回は離陸時における危険と安全対策についてまとめてみました。
離陸時に潜む危険
ターボファンエンジンの欠点
今回、日本航空006便の不具合については、原因を調査中でありますがエンジンの内部に何らかの不具合が発生したものと考えられます。
エンジンに最も負荷がかかるのは離陸と着陸復行の時であり、エンジンの種類にもよりますが最大出力の時間制限を設けているものもあります。
また、最近の飛行機に使われているジェットエンジンはターボファンエンジンという種類であり、エンジンの前面から見える大きな扇風機のような1段目(低圧)のコンプレッサーとエンジン内部にある2段目(高圧)コンプレッサーの2軸で構成されているものが主流となっています。
ターボファンエンジンの利点としては、燃費の良い事が第1です。
同じ軸流式エンジンであるターボジェットエンジンに比べると燃費のみならず騒音の点においても優れているものです。
欠点としては、高圧軸と低圧軸のマッチングの関係で始動時や推力の変動時、そしてエンジンに対する空気流の変動時においてエンジンサージ(コンプレッサー・ストール)が起こり易い事です。
エンジンサージが生起すると今回の様にエンジン後方から炎が噴き出す様に見える事があります。
エンジンへ異物の吸い込み
今回の不具合直後に予測された事は「エンジンに鳥を吸い込んだのではないか」という推定でした。
現在までの調査で、鳥の吸い込みは否定されていますが、2009年1月にニューヨークで起こった「ハドソン川の奇跡」で有名なUSエアウェイズ1549便の事故では離陸直後に両エンジンに鳥を吸い込んだ事によってエンジンが停止しハドソン川に不時着水したものもありました。
エンジンに鳥を吸い込むと通常は低圧コンプレッサーからバイパスを通過してエンジン後部に排出されますが、エンジンのコア部に入り込んだり、破損したエンジン部品がエンジン本体に損傷を与えたり、前述のエンジンサージが発生する等の不具合が発生する可能性があります。
鳥との衝突事例は日本国内でも多数報告されており、国土交通省の調査によれば、毎年1,500件以上発生しております。
また冬場においては、機体に付いた氷の塊等をエンジンに吸い込んだ時も同様の事象が起こります。
氷の塊や鳥以外にも地上に落ちている異物を吸い込めばエンジンを損傷する可能性があります。
自衛隊の飛行場ではFOD(ForeignObjectDamage)清掃といって、週の訓練開始前等に隊員が駐機地区、誘導路、滑走路を徒歩で回ってエンジンに吸い込んでしまいそうな異物を清掃しています。
危険に対する備え
離陸決心速度:V1とは
飛行機を安全に運行するために操縦者は様々な準備をします。
その一つが離陸決心速度V1の決定です。
V1とは離陸する時に多発航空機の一つが停止した場合でも離陸可能な速度であり、この速度を超えてエンジンに不具合が起こった場合滑走路上で安全に停止出来なく離陸継続を決心する速度です。
V1を超えて停止しようとしたために起こった事故が、1996年6月に福岡空港で起こったガルーダ航空機事故でした。
近年の航空機はエンジンの一つに故障が起きても安全に飛行出来る様に設計されております。
飛行機は機種毎に特性が異なるため、操縦者は必要な訓練を義務付けられています。
速度が少なく片方のエンジンが停止した場合、感覚的には正常なエンジンの出力を上げたくなります。しかし双発のプロペラ機において片方のエンジンが停止して最小操縦速度Vmcよりも小さな速度で飛行していた場合には正常なエンジンの出力を一時的に絞らなければならない時があります。
各種情報の収集と事前準備
V1の算出もその一つでありますが、実際に飛行する前に様々な情報を集めて事前の準備をします。
出発地・到着地の天気だけではなく、代替飛行場や経路上の天候も確認します。
冬場で飛行する高度帯では200~300km/時の西風が吹いています。
このような時は最短距離よりも遠回りした方が速くかつ燃料を使わない飛行をする事が出来る場合があります。
必要な情報を集めた後は、その情報を基に飛行計画を作り、実際の飛行で気を付けなければならない事項を整理してから、イメージトレーニングをした後、実際の飛行を行います。
その日の飛行を想定した緊急対処についても考えておきます。
カーナビの無い時代、ドライブに行く前には地図で事前に道や店を確認していたようなものです。
操縦者の資質
不測の事態に備え操縦者は定期的に訓練と検定を受けていて、適切な対応が出来るようになっております。
しかし全ての操縦者が常に満点の結果を出せるものではありません。
決められた時間以内に常に80点の結果を出せる操縦者と、常に満点近い結果を出せるけれど、時々制限時間を越えてしまう操縦者ではどちらの方が適正のある操縦者と言えるのでしょうか。
多くの飛行経験を持ち操縦教官としての経験豊富な方に聞くと「前者の方を選ぶ」と言っておりました。
車の運転よりも遥かに短時間で判断しなければならない場面に遭遇する操縦者にかかるストレスは大きなものであると思います。
刻一刻と変化する中で不具合の全てを把握出来ない時もあり、その状況下で判断した操作は、迷ったまま判断に時間を掛けてしまうよりも適切であると言えましょう。
その中でも、限られた時間でより良い答えを導き出せるように操縦者は努力を続けているものです。
搭乗した飛行機に不具合が生じても慌てる事なく、適切な訓練を受けた操縦者を信用する事が必要ですね。
参考サイト
◆国土交通省 2015年バードストライク・データ
◆魔の11分とは? 飛行機事故の大部分が離着陸前後に発生する!(その1)
◆魔の11分とは? 飛行機事故の大部分が離着陸前後に発生する!(その2)