5月15日、患者の搬送要請を受け任務飛行中の陸上自衛隊LR-2連絡偵察機が着陸直前に連絡が途絶え、その後墜落現場から乗員4名の死亡が確認されました。任務飛行中に殉職された隊員のご冥福を謹んでお悔やみ申し上げます。今回の事故が発生したのは着陸間際の時間帯であったように、航空事故の大部分(約7割)が離陸後の3分と着陸前の8分に発生していると言われております。今回は経験を踏まえて、これについて考えてみたいと思います。
魔の11分とは?
航空事故が集中する時間帯
「魔の11分」とは、飛行機が離陸滑走を開始してから安定した上昇姿勢に移行するまでの3分間と、着陸進入から着陸後に滑走路を開放するまでの8分間を合わせた11分の事です。
航空事故の大部分(約7割)がこの時間帯に発生しております。何故、この時間帯に航空事故が集中するのでしょうか。
離陸する時の3分間に潜む危険
「離陸と着陸、どちらが難しいか?」と聞かれれば、「着陸の方が難しい」とパイロットの殆どが答えると思います。
しかし、離陸する時にも多くの危険要素が潜んでおりパイロットはこれらの事象に対して、常に適切な判断と操作を行っています。
離陸する時に潜んでいる危険は次の3つがあります。
航空機の出力を最大にする最初の時
航空機のエンジンを動かしてから地上滑走中を含めて各種点検を行っていきますが、エンジンを最大出力にする最初の機会になります。
パイロットや整備員が飛行機の機体を点検しておりますが、エンジンを動かすと機体の翼などを動かす「作動油」や機内を快適に過ごすためのエアコンの為の抽気系統に圧力がかかってきます。作動油系統の配管にも圧力がかかってくるため止まっている時には分からない配管のズレやヒビから作動油が漏れ出す事が考えられます。この様なことが起こらない為に定期的な点検と整備は行われておりますが、飛行機を運行する中で最初の関門であると言えるでしょう。
また、離陸時以外はエンジン出力を最大にする機会は通常ないためエンジン本体にも大きな負担のかかる時間帯となります。飛行機によっては、エンジンの最大出力を発揮出来る時間制限を設けているものもあります。
飛ぶ?飛ばない?を決断する最後の時
飛行機を運行する時は、気象状況を含めた様々な情報を集めて判断して行きます。飛行機を運行する事を決心した後に実際に乗り込むのですが、飛行機は一度離陸すると異常事態が発生すれば車と違い「直ぐに停まれば良い」という訳ではなく、安全に着陸しなければなりません。
パイロットは離陸滑走を開始した瞬間から、飛行機の状況や加速の状況などを確認しながらV1という速度に到達するまでに離陸するか?中止するか?を決心します。
V1とは「離陸決心速度(VはVelocityの頭文字)」であって、この速度を超えた場合は、エンジンの一つが停止しても離陸を継続する速度であります。
1996年に福岡空港で起こったガルーダ航空の事故はV1を超えた時点でエンジンの一つが故障し、パイロットが離陸中止を決心したために発生した事故でもありました。
離陸直後に潜む危険
離陸直後の低高度には多くの障害物があります。
建物や地形ばかりでなく、鳥と遭遇する事もあります。
記憶に新しいところでは、映画「ハドソン川の奇跡」でも知られているように、ニューヨークのラガーディア空港を離陸した直後、エンジンに鳥を吸い込み両エンジン共に推力を失いハドソン川に不時着水したという事故がありました。
3,000mを超える高度で鳥を見かけた経験もありますが、その数は低い場所程多い事が通常です。
鳥を見付けた場合、回避操作をする事も考えられますが、低高度・低速度で飛行している時は、回避操作をする事によって飛行機自体が危険な状況に陥る事があります。
また鳥の特性として、飛び上がる時は一旦風上方向に飛ぶ事が通常であり、滑走路脇に休んでいる鳥が音に驚いて滑走路方向に飛び上がる事も考えられます。
次回は、着陸前の8分間に潜む危険についてお話しします。
まとめ
・航空事故の多くは「魔の11分」に集中している
・「魔の11分」とは、離陸後の3分間と着陸前の8分間である