雪山での遭難や嵐による船の難破といった災害で救助に駆け付けるのは消防や警察、海上保安庁の救難部隊です。
しかし、天候や現場の環境といった問題で彼らだけでは救助が出来ないと判断される場合があります。
そこで要請により出動するのが自衛隊に所属する救難部隊です。
特に航空自衛隊と海上自衛隊では専属の部隊が編制されており、彼らは航空救難に於ける最後の砦と言われています。
直近の事例としては、2016年12月7日午後6時40分ころアメリカ海兵隊岩国基地所属のF/A-18D戦闘攻撃機が墜落し、自衛隊の航空機及び艦艇と海上保安庁が生存者捜索に出動するという事態が起きています。
今回は航空自衛隊の航空救難団と、救難員であるメディックにスポットを当てて説明致します。
航空救難団とは?
航空自衛隊の捜索・救難のための部隊

UH-60J救難ヘリ Miyuki Satake / Shutterstock.com
航空自衛隊は日本の空を守る組織であり、戦闘機を中心とした各種航空機を多数保有しております。
しかし、多くの航空機を運用するという事は墜落事故の可能性が高まるという事でもあり、有事の際は撃墜される可能性もあります。
そこで活躍するのが航空救難団です。
彼らは長距離飛行の可能なUH-60J救難ヘリとU-125A捜索機というペアの航空機を活用して、雪山から洋上まで困難な環境でも救助を可能とする事を任務にしています。
全国10ヶ所の基地に救難隊を配置し、埼玉県の入間基地に司令部を構えています。
1961年7月15日に創設されてから2016年8月31日までに航空救難で148名、災害派遣で6,539名の命を救い、東日本大震災では3,443名を助け出しています。
また、救難飛行隊とは別にCH-47J大型輸送ヘリを持つヘリコプター空輸隊を保有し、救急患者や被災者の搬送や、空から水を撒いて火事を消す空中消火活動も行っています。
東日本大震災では援助物資を208,052トン運ぶという活躍をしました。
メディックとは?
鍛え抜かれた精鋭隊員
救難団に所属する救難員のことを、通称・メディックと呼んでいます。
メディック(medic)とは元来は衛生兵という意味ですが、航空自衛隊に於ける彼らは精鋭中の精鋭と呼んで差し支えありません。
アメリカ空軍救難隊をモデルに作られた航空自衛隊救難団は「That others may live(他の人を生かすために)」をモットーとして日本で真っ先に創設された航空救難の組織です。
メディックの任務はただ困難な環境で救助するというだけでなく、戦闘時であっても味方を救い出すという役割があります。
その為、彼らの任務は救命士としての内容だけでなく過酷な自然環境でも生き延びられるサバイバル技術と優れた戦闘技能も身に着ける必要があり、陸上自衛隊の「空挺レンジャー課程」という特に厳しい訓練にも参加しています。
どれぐらい凄い訓練内容かというと、野生のヘビを仕留めて食べるといった事から、敵となる教官が居る山の中にパラシュート降下した挙句に食料も無い中で10日間かけて自力で脱出するといった事まで行います。
空挺レンジャーの記章を持つだけでも一般の隊員からは尊敬の対象ですが、メディックはその環境で負傷者を助ける為に日々過酷な訓練を行っています。
加えて洋上での救難を行う為に海上自衛隊で潜水士の資格も習得しているので、自衛隊の中で一番多彩な技能を持っているとも言えます。
自衛隊の中のスーパーマン、それがメディックです。
海上自衛隊との連携
ヘリの届かぬ海の上では海自と連携!

メディックによるレスキューの様子 Chatchai.wa / Shutterstock.com
救難団のパイロットたちは日本アルプスの険しい地形から、目印のない海の上でも飛べる様に訓練をされていますが、彼らだけでは達成出来ない任務もあります。
例えば、ヘリコプターが飛んで行けないほど遠い場所での海難事故です。
そこで活躍するのは海上自衛隊の救難員たちです。
US-2というヘリコプターより長距離へ進出出来る飛行艇を用いて現場へと駆け付けたり、洋上の護衛艦からヘリで飛び立って救助に当たったりします。
特に降下救助員と呼ばれる隊員はヘリに搭載されたセンサー類の操作も行いながら、メディックとしての能力も持っている優秀な人たちで構成されています。
しかし、海上自衛隊には遭難者を探す為の専用機がなく、ヘリも救難飛行隊という専門部隊以外は哨戒任務に用いるものを使っているため、遭難者の捜索に関して専用の装備を持つ航空自衛隊の救難団と連携をとりながら任務を遂行しています。
日本で警察や消防、海上保安庁が助けられないと判断しても、最後に助けに飛んでいくのが彼ら自衛隊のメディックであり、「最後の砦」と言われる所以です。
今日も、日本の安全と平和を守る為に訓練を積み重ね、出動があれば駆け付けているでしょう。
まとめ
◆日本で最も高度な救難能力を持つ組織が航空自衛隊航空救難団
◆全国10ヶ所で救難隊が待機している
◆メディックはあらゆる環境で救助を行う精鋭中の精鋭
◆海上自衛隊の救難飛行隊やヘリと連携して日本の広い海を守っている