約1年前の2016年12月14日、米国のシンクタンク機関である戦略国際問題研究所が南沙諸島(スプラトリー諸島)に造成した複数の人工島に大型の対空火器を設置した事を確認したと発表しました。
1988年に起こったスプラトリー諸島沖海戦にて実行支配を計って輸送艦と戦車揚陸艦を派遣したベトナム海軍に対して、中国海軍がフリゲート艦にて攻撃を行いベトナム空軍が飛来する前に撤退、実質的な勝利を収めた事で現在問題となっている岩礁を支配下に収めました。
中国が南沙諸島を実行支配する事で起こる日本の安全保障に対する問題と中国の軍事拡張に関して考えてみます。
南沙諸島と安全保障
シーレーンの根本を抑える
日本に届く中東産の石油は海賊が問題となっているソマリア沖や、シリアに面するホムルズ海峡を抜けてインド洋を横断、マレーシアとインドネシアに挟まれたマラッカ海峡を抜けて一路北へと針路を取り日本へたどり着きます。
このマラッカ海峡から日本までの間にあるのが南シナ海であり、そこに存在するのが南沙諸島です。
中国軍がここを抑えると、日本はより南東にあるマカッサル海峡を経由するかオーストラリア大陸北方を経由しパプアニューギニアの東側を経由するルートを取らざる得なくなります。
これは輸送コストの増大だけでなく、守るべきシーレーンの距離が長くなる事で攻撃に対して脆弱になる事を示します。
中国が実行支配する南沙諸島周辺では中国空軍のH-6K爆撃機による対艦攻撃が心配され、より遠方の海域では中国海軍原子力潜水艦による通商破壊作戦が考えられるからです。
太平洋方面からは食品や鉱物の輸入がすでに行われているので、それらの航路と合流させれば護衛の負担を減らせますが、乗員に長期間の航海を求める事にもなるので、近隣諸国の協力を得る事が欠かせません。
海上自衛隊の任務には「海上交通の安全確保のための作戦」がうたわれていますが、航空自衛隊の活動範囲より外で行う任務は非常に困難と言えます。
対する中国海軍は空軍の支援を受けながら南シナ海で活動出来るので、航路に面する国の協力を得られなければ、シーレーンを中国は優位にコントロール出来ます。
また、埋め立てにより滑走路を延長して軍事拠点化が進んでおります。
中国の軍拡
正規空母の建造も進む
現在中国人民解放軍はA2AD戦略(Anti-Access/Area Denial、近接阻止/領域拒否)と言われていた海軍と空軍の拡張を進めています。
※A2ADという呼び方は定義が曖昧として米海軍はこの表現をやめています。(出典:岡崎研究所:米海軍作戦部長が使用禁止にした「A2AD」)
これは、日本を起点としてマラッカ海峡へ伸びる第一列島線とグアム方面へと延びる第二列島線で構成され、ここより内側に侵入する敵対戦力(主として米軍)を海空軍の火力をもって阻止・排除する戦略です。
中国海軍は現在ウクライナから輸入したソ連製空母を再生し、練習用として活用しつつ国産空母の建造を進めています。
これは、元々は対台湾向けに考えられていた空母戦力を、より広い範囲の海上優勢確保に用いるという考えの元で配備が進められると考えられます。
また、在来型のミサイルや爆撃機、潜水艦によって遠方への火力投射を実現しており、米軍でも慎重にならざる得ない戦力を保有しています。
陸軍の近代化や揚陸艦などによる派遣能力も向上させており、今後も動向が気になるところです。
装備の整備が進むにつれて訓練も活発化し、最近の報道にあるように太平洋へ進出しての訓練が行われるようになってきました。
日本の隣で、敵対心を見せながら軍拡を続ける中国の矛先が日本に向けられた時、自らを守れるよう、自衛隊にはこれからも頑張ってもらいたいですね。
まとめ
・南沙諸島を中国が抑える事は日本の国益に重大な影響を及ぼす
・中国軍は現在も支配力を向上させる為に軍拡を続けている
参考サイト
◆海上自衛隊 我が国と世界の防衛 > 海上交通の安全確保のための作戦
◆岡崎研究所論文集 米海軍作戦部長が使用禁止にした「A2AD」
◆防衛省:「南シナ海における中国の活動2016年12月」
参考資料
◆「人民解放軍:党と国家戦略を支える230万人の実力」竹田純一著、ビジネス社2008年
◆「図説 自衛隊有事作戦と新兵器 」河津幸英著、三修社2012年
◆「図説 自衛隊の国土防衛力」 河津幸英著、三修社2011年