2016年11月18日、トランプ次期米国大統領は北大西洋条約機構(NATO )のストルテンベルグ事務総長と電話会談し、 「NATOはテロとの戦いにむけて不朽の重要性がある」と合意しました。
大統領選挙期間中はNATOを「時代遅れの組織」とこき下ろし「米軍が積極的に関わることをやめよう」といった発言をしていたトランプ氏ですが、ここにきてNATOとの関係性を今後も「重要」としていく方針に転換した形になります。
一部の識者の間では選挙期間中のトランプ氏による過激な対外発言は実際にとる外交政策とは別物になる可能性が高いと見られていましたが、その予想が的中しているかもしれません。
今回はNATOとはそもそもどの様な組織で、今後のトランプ氏の外交とどのように関わっていくのかを解説します。
NATOとは?
ソ連の脅威に対抗するために生まれた
北大西洋条約機構(NATO)はその名前に示されるように、大西洋に面する北半球諸国と結ばれた軍事条約機構です。
創立は1949年4月4日で、第二次世界大戦後のヨーロッパにて脅威を増していたソ連を中心とするワルシャワ条約機構に対抗するために誕生しました。
一方で、たびたび戦争の原因となっていたドイツの軍事的動きを抑え込むという目的も持っています。
イギリスとフランスが近くで脅威となっていたソ連とドイツに対抗するために「アメリカを巻き込もう」と考えて作られた機構であると言われています。
本部はベルギーの首都ブリュッセルに置かれており、アメリカの軍事力を背景として活動を続けていました。
冷戦の崩壊までソ連軍の矢面に立ち、西ドイツにはアメリカ・イギリス・フランスといったNATO主要国の軍隊が駐留していました。
現在の加盟国は28カ国です。
近年では2009年にアルバニア・クロアチアが加盟しています。
日本とNATOとの関係は地理的に距離がある事からそれほど緊密な連携をとってはいません。
しかし、自衛隊では武器弾薬の互換性を持つためにNATO規格の弾を使用しています。
NATOの現在の役割
地域の紛争解決へ目的をシフト

2016年NATOサミット Drop of Light / Shutterstock.com
1991年ソ連が崩壊すると、NATOはその目的を周辺地域に於ける紛争の解決とシフトしました。
例えば、1999年のコソボ紛争では初めてNATO軍として軍事行動を行い、セルビアに対する制裁空爆を行っています。
また、もともとソ連側に付いていた旧東側諸国も現在はNATOに参加しつつあります。
しかしロシアはこの動きをよく思っていない節があり、プーチン大統領をはじめとするロシアの高官は度々記者会見などでNATO拡大の動きに不満を示しています。
2001年のアメリカ同時多発テロ以降の「対テロ戦争」では当初NATOとして積極的な参加はしていませんでした。
しかし2005年からアフガニスタンでの軍事行動を任されるようになり、2006年には米軍からNATOへ指揮権が委譲されています。
対テロ戦争にはNATO加盟国内で対応が分かれており、戦力も限られているためにたびたび加盟各国から戦略の見直しが求められています。
そして2008年に起こったグルジア紛争以降はロシアと西ヨーロッパ諸国の関係が再び悪化し、「新冷戦」と呼ばれる状況に陥っています。
これはロシア対NATOの互いの勢力圏拡大に対する警戒から来るもので、ロシアとの友好関係構築を目指すトランプ氏にとっては頭の痛くなる問題です。
今回の電話会談でトランプ次期大統領はNATOとの深い関係をアメリカが続けていくことを確認しましたが、ロシアのプーチン大統領と会談した後にどの様な関係を築いていくのかが今後注目されます。

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今から100年前に起こった第一次世界大戦では互いの王室や経済的関係から戦争は起こらないと期待されていました。
しかし戦争は起こり、多くの犠牲者を出してしまいました。
21世紀でも再び同じ轍を踏まないよう、アメリカの外交政策やNATOの今後がどうなるか日本でも注意していく必要があります。
まとめ
◆NATOはソ連の脅威とドイツが再び暴走しない様にする為に誕生した。
◆冷戦後のNATOは周囲の紛争解決を主な役割としていた。
◆現在、新冷戦と呼ばれるロシアの脅威にNATOは直面しており、トランプ氏が就任後にどのような外交政策をロシア・ヨーロッパに対して実行するか注目されている。