東日本大震災や、韓国での地下鉄火災など、危機がもう目の前に迫っているというのに、それでも逃げずに命を落としてしまう人々が後を絶ちません。この現象は一体なぜ起こるのか、災害時や緊急時に「逃げない」人が多いのはなぜか、人間の思考の癖をお伝えし、いざという時の正しい行動の取り方をお伝えします。
“パニック”は、実は起こりにくい!
非常時に、その事実を人々に伝えると「人々がパニックに陥り、収拾がつかなくなる」という想定。これは実は、非常にまれな現象だということをご存知でしょうか?
映画やドラマなどでは、非常時に大勢の人々がパニックに陥るシーンがありがちですが、実際の世界では、「パニックは簡単には起こらない」のです。
災害時に最も怖いのは、人々のパニックではなく、むしろその逆の「まさか逃げなくても大丈夫だろう」という思い込みと、いざというときに体が凍り付いたように動かなくなる、「凍り付き症候群」と呼ばれる現象なのです。
それでは、この2つについて、詳しく紐解いていきましょう。
自分だけは大丈夫、という罠
「まさか逃げなくても大丈夫だろう。(自分だけは)」「いつも津波警報が出るけど来たためしがないから今回も大丈夫だろう(自分だけは)」
このように、自分自身に危機が迫っているにもかかわらず、これまでの経験上「自分だけは大丈夫だろう」と目の前の事実の認識を誤ってしまう心理現象を、「正常性バイアス」と呼びます。東日本大震災における津波では、これまでの津波警報の経験で、逃げ遅れたり、想定よりも高い津波に襲われたりという悲劇が数多く発生しました。
災害は、一つとして同じものはありません。
「これまではこうだったから」という先入観は、時として自分の命をも奪ってしまう危険なものになりかねません。
人間の脳には、正常性バイアスという働きがあることを理解したうえで、日常で起きていること・非常事態で起きていることの切り替えをしっかりと行い、非常事態にはその事態を冷静に受け止め、悲観的にとらえて「命を守るために逃げる」行動を率先して起こしましょう。
非常時のイメージトレーニングで凍り付きを防ぐ!
イギリスの心理学者であるジョン・リーチ博士は著書等で、人間が予期せぬ非常事態(災害など)に見舞われた際、取る行動は次の3つに分かれると述べています。
1.落ち着いて行動できる人 約10%
2.我を失って泣き叫ぶ人 約10~15%
3.ショック状態に陥り、呆然自失で何もできない人 約75~80%
つまり、突発的な災害に見舞われた際、多くの人々がショックと恐怖で何もできなくなる「凍り付き症候群」に陥るということなのです。
博士は、突発的な目の前の状況の変化に脳がついてゆけず、その結果として心身が硬直してしまう、と述べています。
人間は、経験したことのない出来事や、想像したことのないことに対しては、非常に弱く、このような凍り付きの現象が起こってしまいます。特に、地震災害のような一生に一度遭うか遭わないかという出来事に関しては尚更、一体何が起こったのか理解できず、呆然としてしまうのも当然です。
そのため、日頃からのイメージトレーニングや訓練が非常に重要な意味を持ちます。
大地震が起きると、職場はどのような状況に陥るのか?自宅はどのような被害を受けそうなのか?ちょっとした時間に想像してみましょう。
倒れてくるものは?電機やガスはどうなるのか?家族とばらばらだったらどのようにして連絡を取り合うのか?家の近所、職場の近所で古い家屋や倒れてきそうな塀は?避難するならどの経路を使う?・・・
などなど、事細かに想像し、それに対する対処法をシミュレーションしておくことをお勧めします。それも、なるべく最悪の事態を想定して。そのようなトレーニングを積むことで、いざというときの行動がきっと効果的になるはずです。ぜひ、災害時のイメージトレーニングを始めてみてください。
まとめ
・パニックよりも怖いのは「自分だけは大丈夫」という思い込み。非常時には最悪の事態を想定して、率先して逃げよう!
・災害時に具体的に何が起こるのかを常にイメージトレーニングしておくことで、災害時も落ち着いた行動がとりやすくなる!
参考文献
◆新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている / 山村武彦 著 / 宝島社