東日本大震災から6年以上の歳月が経ちました。
当時の映像を見返すと、地震によって倒れた物を片付けようとしている人や、日常通りの暮らしをしている中で津波に巻き込まれていくといった光景が見られます。
迅速に避難していれば助かった可能性があったのではないかと思うとやるせない気持ちに駆られてしまいますが、彼らはなぜ避難出来なかったのでしょうか?
宮城県石巻市の大川小学校で避難誘導が上手くできず生徒や教師の多くが被災された悲劇と同じことが起こらない様にする為にも、災害時の心理現象「正常化の偏見(正常化バイアスとも)」を説明します。
災害時に陥りがちな心理現象
人は都合の良い方向へ考える
非常事態などに遭遇すると、人は特殊な心理状態になりやすいといわれています。それは、災害心理学の用語で呼ばれている次の二点です。
①「正常化の偏見」:「いつもと変わらず正常である。自分は大丈夫だ。」と思い込もうとする人間の特性。
②「認知不協和」:頭では分かっているが行動が伴っていない状況。
事態の状況によっては、だれしも陥る可能性がある心理的な教訓事項として再認識しておく必要があると考えます。
そこで、過去に発生した事例や専門家の方の説明を含めて一部紹介します。
過去の事例から分かること(ひとつひとつに原因がある)
災害時に起こる心理現象を個々の事例から調べてみました。
地下鉄火災事故
2003年2月18日、韓国の大邱(テグ)市で発生した放火による地下鉄火災事故(死者198人)
火災発生直後、煙が漂ってきても多くの乗客は逃げずに座っているだけでしたが、間もなく黒煙が一気に入り込み、列車内とホームが火炎と煙に巻かれ大惨事となりました。
教訓としては大きく二つあります。
・ 地下で発生する火災の特性を知っておくこと。
地下自動車道や地下鉄などで火災が起こると、排気塔を通じてトンネル内に「煙突効果」という対流現象が起こり、大きな火災に発達する可能性がある。
・安全という思い込みに陥らない。
典型的な「正常化の偏見」による事故といわれており、地下火災の恐ろしさを理解した上で、異変を感じたら直ちに避難すること。
自然災害(津波)
これまで発生した多くの津波災害においては、「身体的理由から避難できなかった」や「住民の命を守ることを職責とする人々が状況的に避難できなかった」などいくつかの要因が挙げられていますが、「避難できる状況下においても最善の行動をとらなかった」と考えられる被災者が多数含まれていたことがたびたび指摘されています。
津波避難率から確認されている次のような事例もあります。
・2003年5月、東北地方・三陸沿岸で発生した震度5強~6弱の地震で、気仙沼市での調査結果、住民の津波を意識した避難率は1.7%であった。
・2004年、紀伊半島南東沖で発生した地震(M7.4)で和歌山県などの沿岸部に1mの津波が予想されて「避難勧告」が出されたが、避難した住民は10%以下であった。
※上記のいずれも歴史的に「津波常襲地域」での結果であることに注意が必要です。
人はなぜ逃げないのか
正常化の偏見から始まる災害心理のメカニズム
人が逃げない時の心理状態を次のように分析されています。
自分は大丈夫と思って逃げない。
「正常化の偏見」
➡だが心配なので情報収集に走る。
➡情報収集に走るが故になおさら逃げない。
➡逃げていない自分を正当化する理由を探す。
➡その理由は簡単に見つかる。
➡結局逃げられない。
=頭では分かっているけれど行動が伴わない。「認知不協和」
※正当化する理由は、例えば、「以前、津波警報や避難勧告があった時も津波はこなかった。」、「隣の家の人は逃げていない。」、「テレビから何の情報も流れてこない。」など
この様な流れで災害時でも「逃げられない」という心理状態に陥るのです。
災害時には異常を感じたらすぐに「こっちなら安全だ!」と考えられる方向へ避難しましょう。
まとめ
・ 災害や事故の特性(危険性)をよく知ること
・「正常化の偏見」などの災害心理状態に陥りやすい
・異変を感じたら直ちに避難などの行動を起こすこと
参考資料
◆『人が死なない防災』片田敏孝著(集英社新書)2012年刊
◆『未曾有と想定外』畑村洋太郎著(講談社現代新書)2011年刊
◆『次に来る自然災害』鎌田浩毅著(PHP新書)2012年刊