2015年に航空自衛隊がスクランブル(緊急発進)を行った回数は873回に及び、1日に2~3回は戦闘機が緊急発進しています。
今年も多くの領空侵犯の可能性がある航空機に対処する為の飛行が行われています。
2016年12月10日も中国空軍の爆撃機や戦闘機が東シナ海から沖縄本島と宮古島間を通過し、航空自衛隊の戦闘機が対応しました。(12月11日、防衛省発表資料)
飛行機の進化は遠い国との交流を便利に変えてくれましたが、同時に敵意を持つ国が迅速に攻撃できる様になりました。
万が一、日本を攻撃しようとする国があらわれても即座に対応するため、航空自衛隊が取っている領空侵犯に対する防空体制がどの様な内容なのかを調べてみました。
航空自衛隊の基地と装備
全国7ヶ所に約300機の戦闘機

F-15J kojihirano / Shutterstock.com
現在、航空自衛隊は約300機の戦闘機を保有しており、航空総隊隷下の12個飛行隊が7ヶ所の航空基地に配備されています。
特に中国大陸と近い九州北部の西部航空方面隊には強力な対艦攻撃力を持つF-2戦闘機が2個飛行隊配備され、沖縄県の那覇基地には最強の第4世代戦闘機とされるF-15J戦闘機2個飛行隊が守りについています。
航空自衛隊が保有する戦闘機の数は1,000機以上もの航空機を保有する中国やロシアと比較すると少なく見えますが、質でカバーすべく日々訓練を重ねています。
今年の9月25日には第5世代戦闘機という最新技術で出来たF-35A戦闘機の日本向け機体がロールアウト(出荷開始)し、若宮健嗣(けんじ)防衛副大臣が米国でのレセプションへ参加しました。
領空侵犯の可能性がある不審な飛行機を発見した場合、彼らが真っ先に飛び立ち確認し「通告」や「警告」を実施しています。
航空自衛隊のレーダー網
28ヶ所のレーダーサイトと早期警戒機・早期警戒管制機
いくら戦闘機が沢山あっても、発見出来なければ要撃(軍事用語で待ち構えて攻撃すること)を行う事は出来ません。
航空自衛隊は全国28ヶ所にレーダーサイトを配置しており、強力なレーダーの網で日本全土を覆っています。
近年は「J/FPS-7」という弾道ミサイルの探知も可能な新型レーダーが配備されつつあり、日本の空の守りを固めています。
地上に設置してあるレーダーの弱点は、低空を飛行する物体が地形の影に入ってしまうと探知出来なくなります。
1976年、ソ連のベレンコ中尉がミグ25戦闘機で低空飛行を行い地上レーダーの網をくぐって日本に侵入し、航空自衛隊の要撃を回避して函館空港に強行着陸を行い亡命に成功したという事件がありました。(過去記事:日本の防衛に影響を与えた「ミグ25事件」とは?)
このミグ25事件を教訓として、航空自衛隊は「警戒航空隊」を編制しE-2C早期警戒機(AEW)という空飛ぶレーダーサイトを運用しています。
現在は世界でも最高峰のレーダーと管制能力を持つE-767早期警戒航空管制機(AWACS)という航空機も4機保有しており、低空からの侵入者に対しても日夜目を光らせています。
彼らは青森県の三沢と静岡県の浜松、沖縄県の那覇基地に配備されており、浜松にはAWACSが集中配備されています。
領空侵犯対処の流れ
発見から領空侵犯機への対処まで
航空自衛隊では自衛隊法第八十四条第一項により定められている領空侵犯に対する処置を行う為、これまで書いてきた装備を活かして各方面隊にある防空指揮所が中核となってスクランブル(緊急発進)などの対応処置を行います。
第八十四条第一項(領空侵犯に対する措置)
防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。引用:自衛隊法
対処の流れは、防空識別圏(ADIZ)という国境とは別に安全を守る為の境界を設定し、飛行計画もなく領空に侵入する可能性のある飛行機を国籍不明機として地上からの無線通告・警告や戦闘機によるスクランブルを行います。
これらの流れは防空指揮所に繋がるJADGE(自動警戒管制システム。ジャッジ・システム)により制御されています。
戦闘機のある基地では常にパイロットがスクランブルに対応出来る様に待機していますが、待機にも5分待機・30分待機などの区分があります。
戦闘機を飛ばすためにはいくつものチェックが必要ですが、「5分待機」の場合はスクランブル下令後5分以内に離陸できる様に一通りのチェックを済ませた状態で待機しているのです。
状況によっては、国籍不明機の接近より先に戦闘機を飛ばして戦闘空中哨戒(CAP)という対応を行う事もあります。
地上のレーダーサイトやAWACSの誘導により国籍不明機へ導かれた戦闘機は、証拠とする為の写真撮影と無線による通告・警告を実施します。
通常は国籍の確認と日本の領空に近づきつつある事を通告しますが、領空侵犯を行えば直ちに空域から離れるか、誘導に従って近隣の空港へ着陸する様に誘導するのです。
もしも誘導に従わない場合は警告射撃を行う事になっていますが、日本では1987年12月9日に沖縄県で領空侵犯を行ったソ連Tu-16P偵察機(爆撃機改造)に対して行ったものが唯一の事例です。
スクランブルを行う際に自衛隊機は2機1組で行動しますが、これは対領空侵犯中に国籍不明機の横につく戦闘機が攻撃を受けてしまいそうになった場合、速やかに国籍不明機に対応できる様にもう1機が全般状況を監視していのです。

F-35A Logtnest / Shutterstock.com
現在、日本の領空侵犯処置で一大事となった事はありませんが、それは航空自衛隊の隊員が日々緊張と戦いながら24時間365日いつでも万全の態勢で「空の安全」を守っているからなのです。
まとめ
◆航空自衛隊では300機ほどの戦闘機が日々空を守っている。
◆28ヶ所のレーダーサイトと空飛ぶレーダーである早期警戒(管制)機が日本の空を監視している。
◆航空自衛隊は法令に基づいて年に800回以上もスクランブル(緊急発進)を行い、領空侵犯から日本を守っている。