大災害が起きた時、自分のチカラだけでは避難する事がむずかしい障がい者や高齢者などの周囲からのサポートが必要な方々は、どのように日ごろから防災の準備をしていたら良いでしょうか。
各自治体では障がい者・高齢者・医療的ケア児などを「避難行動要支援者」と位置づけして、日ごろの防災準備を呼び掛けています。
平成23年3月11日に発生した東日本大震災では
「障がい者の死亡率は障がいのない者の2倍に及ぶ」
(災害時における高齢者・障がい者支援に関する課題:日本弁護士連合会 高齢者対策本部、高齢者・障害者の権利に関する委員会編)
という報告がありました。
要支援者にとって、災害はとても大きな脅威です。
この記事では、要支援者の避難・防災に関して行政からどのような取り組みが行われていて、どのように準備したらいいのか、注意するべき点をまとめてみました。
要支援者の周りの方の一助となりましたら幸いです。
まずは自助・共助が必要不可欠
まずは自身と周りの方々で万全の備えを
それぞれ地方自治体や行政の取り組みを見てみると、障がい者や福祉サービスを受けている高齢者も、災害時には「自助・共助」が大切であるとされています。
日常生活に不便を感じている方々に対して、災害発生時に「まずは自分と周りの人で助け合ってください」という事で、まるで公助(行政からのサポート)から切り離されたような厳しい印象を受けるかもしれません。
しかし大災害が発生した時には、行政などの「公助」だけでは十分なケアがいきわたらない可能性があります。
まずは要支援者自身と周りの方の協力をあおいで、災害に対する備えを万端にしておくことが必要不可欠でしょう。
さて、実際に災害が起きた際には要支援者の方はどのような避難経路が進めばよいのでしょうか。
それは一般の被災者と一緒で、
自分のチカラもしくは支援者の支援を受けて、「集合場所」へ避難。
↓
「集合場所」から地方自治体に指定された「1次避難所」へ支援者と移動。
↓
「1次避難所」から、地方自治体に指定された「2次避難所(福祉避難所)」へ支援者と共に移動。
が基本となります。
集合場所→1次避難所→2次避難所の場所や設備をチェックしておきましょう。
必要であれば避難所では手に入らない薬屋設備などをいつでも持ち出せるように準備しておきましょう。
リストにしておいて、いざという時に忘れ物がないようにしましょう。
行政から公助を受けるための準備
場合によっては申請・登録が必要
では公助として行政からサポートを受けるためには、どのような準備の必要があるのでしょうか。
それには各地方自治体に「避難行動要支援者」として、あらかじめ登録しておく必要があります。
これは障がい者手帳の交付と一緒で、黙っていても自動的に登録されるものではありません。
自治体によっては申請するなど、手続きが必要な場合があります。
最寄りの地方自治体に登録・申請などの手続きの必要があるのか、あらかじめお問い合わせください。
要支援者本人やその支援者と、地方自治体や自主防災組織等の動きの流れを見てみましょう。
- 自主防災組織が避難支援個別計画を策定。
- 地方自治体が障がい者手帳やその他申告で要支援者を把握。
- 地方自治体が自主防災組織等への個人情報開示の書類を作成。要支援者本人(もしくは支援者)に意思確認を行う。
その個人情報は自治体が自主防災組織、管理組合に提示。災害時、安否確認や避難支援に使用されます。 - 自主防災組織と要支援者本人・支援者は、個別避難計画の策定を行い、地方自治体に提出。地方自治体と自主防災組織の台帳に保管されます。
名簿と個別避難計画台帳の更新は年1回。毎年の書類提出が必要です。
これで、要支援者本人は「避難行動要支援者」として市に登録され、公助のサポートが受けられるようになります。
要支援者への行政のサポート
公助はどんなことをするのか?
「避難行動要支援者」は、なるとどんな公助のサポートが受けられるのでしょうか。
- 1次避難所の備蓄品に、地域にいる要支援者に必要な物品を検討する。。(呼吸補助装置のバッテリーなど)
- 自治会や防災会による救助や避難所運営の際に、障がいに応じた支援をしてもらう。(聴覚障がい者向けのイラストボードの配布など)
- 2次避難所(福祉避難所)への移動がスムーズに行われる。
- おむつ等の必要な消耗品が優先的に支給される。
などがあります。
いずれも地方自治体によってかなり対応に差がありますので、確認をておいたほうが良いでしょう。
このような流れで公助によるサポートができるだけスムーズに受けられる体制が整います。
では、実際に要支援者とその支援者が災害に備えるにあたって、いくつか注意点があります。
- 障がい者の場合、公助のサポートを受けられるのは障がい者手帳の申請をしている方が優先となりがちです。障がい者手帳の申請をしていない場合は対象外となることもあります。
過去の災害時には様々な理由で障がい者手帳を持っていない方・行政へ「要支援者」として登録されていない方が見落とされて不可視化状態(いない事)になり、様々な困難に遭われた事例がありました。
障がい者福祉施設や福祉系のNPO法人も独自に要支援者のリストアップを行っております。
障がいで悩む方への相談窓口は様々な組織が設けておりますので、一人で抱え込まないで、まずは専門機関に相談する事が大切です。
- 自助の支援者は身近なご家族や知人友人などになるかと思いますが、共助の支援者となる自主防災組織が、お住まいの地域に存在するかどうか確認しなければなりません。
地元に自主防災組織が存在しなかったり、書類上は組織があっても機能していなかったりする場合は、計画的な共助・公助は期待できません。
障がい者福祉施設や福祉系のNPOなどに頼らざるをえませんので、幅広い情報収集と連携がより重要となります。
- 2次避難所(福祉避難所)の場所指定や民間施設との協定がなされていなかったり、高齢者向けの施設で障がい者向けの指定や協定がなされていなかったりする自治体もあります。
自分の住んでいる地域に施設が存在するのか、さらにその施設は行政と協定しているのかを調べておくことは非常に重要です。
その際にも障がい者福祉施設や福祉系のNPOに頼らざるをえません。
情報収集と連携が非常に重要です。
- 地方自治体によっては、妊婦・乳幼児も「避難行動要支援者」になる場合があります。
これからの展望に期待するのではなく、現在の状況を押さえて、防災の準備を呼び掛ける点に絞りました。
東日本大震災を例にとると、「障がい者は避難所から出ていってほしい等の発言による差別(2011年5月23日内閣府障がい者制度改革推進会議第32回の報告)」があったほか、避難所で個別の条件が加味されない事によって、聴覚障碍者が配食のアナウンスを受け止められず、配食が受けられず飢餓に陥るケースも報道で報告されています。
更に精神障がい者が避難所に入れず、野外での生活を余儀なくされて障害が重度化する例も報告されました。
特に発達障害など、一見して障がいがある事がわかりづらいものについては、「愛の手帳など」が、自分の障害を証明する唯一の手段になります。
手帳の交付を受けておく必要性がより高くなります。
1次避難所は妊婦・小児・障がい者・要介護者も避難してくる施設ではありますが、要援護者マターでは運営されていないため、公助から不可視(存在しないもの)になる事もあり得ます。
大災害時には、地方自治体・福祉施設関係者・自治会・自主防災会も被災者となり、情報の消失・施設の損傷・人的資源の減少などがあり、公助がいきわたらない可能性があります。
要支援者は、日ごろからの自身の支援者や関係団体とのネットワークが重要となる事を念頭においた方が良いでしょう。
大災害は今日にも起こるかもしれない自然現象ですので、自治体の取り組みを待たずに、隣近所や支援者の方と、ネットワークを築いておきましょう。
まとめ
- 避難の際に要支援者にとって必要不可欠なものをリストアップしておくこと
- 当面は各自治体からのサポートが要支援者全員にはいきわたらないことも考慮した備えを
- 行政からのサポートを受けるために、できるだけ要支援者は自治体へ登録を
追記
2016年8月18日付の神戸新聞の報道では、兵庫県を中心とした地方議員グループの調査で、「避難者名簿(避難者カード)」に障害の有無、介護の必要性、医療機器使用、妊産婦の項目がない自治体が7割にのぼる。という情報が出ました。
参考リンク
- 神戸新聞「災害弱者「名簿に記載欄なし」7割超 自治体避難所」