平成28年(2016年)4月から「障害者差別解消法」がスタートしました。
これによって、災害時における被災者支援の方法も大きく変わる事になります。
具体的にどのように変わっていくのでしょうか?
「障害者差別解消法」を紐解きながら見ていきましょう。
障害者差別解消法の内容
法律で大きく変わった支援方法
防仁学の過去の記事に「障がい者・要支援者の避難と避難所での生活 注意点まとめ」があります。
実はこの記事で取り上げた注意点が今回紹介する法律により【差別になり違法】となるものがあるのです。
重要なキーワードが「社会的障壁」です。
少し難しいですが、法律をいくつか抜粋してご紹介します。
(社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備)
第五条 行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号))
「社会的障壁」とは
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
二 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号))
つまり今までの概念のバリアフリーとは打って変わり、日常生活や社会生活において制限を受ける一切のものが「社会的障壁」となります。
これらを全て「差別」として、除去しなければなりません。
先の防仁学・過去記事「障がい者・要支援者の避難と避難所での生活 注意点まとめ」の記事内で紹介されていた以下の行為は「除去」されなければならない差別であり、「社会的障壁」となりました。
「地元に自主防災組織が存在しなかったり、書類上は組織があっても機能していなかったりする場合は、計画的な共助・公助は期待できません。」
「2次避難所(福祉避難所)の場所指定や民間施設との協定がなされていなかったり、高齢者向けの施設で障がい者向けの指定や協定がなされていなかったりする自治体もあります。」
「避難所で個別の条件が加味されない事によって、聴覚障碍(しょう-がい)者が配食のアナウンスを受け止められず、配食が受けられず飢餓に陥るケースも報道で報告されています。更に精神障がい者が避難所に入れず、野外での生活を余儀なくされて障害が重度化する例も報告されました。」
そして「社会的障壁」を「除去」する為の手段として「合理的配慮」が義務化されました。
この合理的配慮の一つがバリアフリーであり、これらは普段目にします。
・階段に合わせてエスカレーターやエレベーターの設置
・視覚に障害がある人用の点字ブロックや点字プレート
・聴覚に障害がある人用のアナウンスの見える化
・精神や認知に障害がある人用の避難所における個室の設置
・肢体に障害がある人用の列に並ぶ事の免除及び椅子への着席の配慮
合理的配慮は無数にあります。
それこそアイデアを出せば出すほど、無限に湧いてくるものです。
「災害時だから」「もっと多くの人に手間を割くために」……これらは全て差別になって、こういった発想自体が除去されなければなりません。
「災害時でも」「障がい者支援も含めて効率よく」……という発想への転換が義務となりました。
「合理的配慮」のベースとなる考え方は
(目的)
第一条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号))
とされています。
障がい者が支援・援助されるだけではなく、障がい者にも社会活動へ参加する機会を設ける為の取り組みです。
災害時でも日常生活でも、基本、全ての障がい者が社会へ参加できる世の中である事を求めています。
防災においても障がい者も出来る事があり、その参加を積極的に求めていかなければなりませんし、障がい者も自助・共助への参加を求めています。
避難所へも普通の社会人として障がい者が避難出来る事によって、障がい者の持つノウハウが怪我をした人、子供など、その他の人々に生かす事へつながっていきます。
同質性を求めて異質を排除する、排除の論理で避難所や防災対策が運営されれば、障がい者が排除され、次に病気の人が排除され、怪我人が排除され、ストレスで具合が悪くなった人が排除され、最後には誰もいなくなります。
避難所でも防災活動においても、この法律が目指す「共生」を実現する事によって、より柔軟な強い被災者支援が出来るようになります。
細かくは国や地方自治体、事業者、国民とそれぞれに法的義務、努力義務など、差がつけられておりますが、重要な点が1つあります。
それは所管する大臣が無い場(要するに道や避難所での個人的言動)での差別については、公安委員会が差別解消の是正指導、助言などを行う事になります。
(主務大臣)
第二十一条 この法律における主務大臣は、対応指針の対象となる事業者の事業を所管する大臣又は国家公安委員会とする。(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第十二条 主務大臣は、第八条の規定の施行に関し、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号))
つまり警察と検察です。
ここにある事業者というのは、法人格個人、有償無償を問わず反復してその目的のある活動をしている者になります。
そして
第二十六条 第十二条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。
(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号))
差別は罰則がある違法行為になりました。
立法府である国会の差別解消を行う強い意思を感じます。
内閣府の要約に、この法律の目的が簡潔に書かれています。
全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として
(出展:内閣府ホームページより)
これが実現すれば、「防災4.0」にある「ムダの活用」が実現できます。
障害者用の備蓄物資は、怪我をした人にも活用出来ますし、分散備蓄されていればそれだけ柔軟な運用が出来ます。
障がい者に配慮しすぎて排除する事無く、絆の輪を結ぶ事によって、より災害に対して柔軟で強い社会が実現されます。
実際には行政の取り組みだけでは難しいでしょうし、時間もかかるでしょう。
実行力を持つ防災や障がい者福祉や高齢者福祉、子育て支援などのNPOが結びつく事によって、行政にモデルを提示する事が出来る事もあるかもしれません。
情報発信がインターネットによるものが主になる事によって、個人の情報発信も大きなチカラになるかもしれません。
更に普通救命講習を受けたりする事で、怪我をした相対的な弱者への配慮を学ぶことも第一歩かもしれません。
(国民の責務)
第四条 国民は、第一条に規定する社会を実現する上で障害を理由とする差別の解消が重要であることに鑑み、障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならない。(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号))
共に災害に強い日本を作り上げていきましょう。
まとめ
・差別は違法である
・差別を解消する事によって災害に強い日本が実現できる
・障がい者のノウハウを活用しよう