2016年10月21日に震源6弱を観測した「鳥取県中部地震」が発生し、伝統的建造物群保存地区に指定されている通称「倉吉市 白壁土蔵群(しらかべどぞうぐん)」も漆喰壁(しっくいかべ)が剥がれ落ちるなどの被害が発生しました。
「白壁土蔵群(正式名称=倉吉市打吹玉川伝統的建造物群保存地区 )」は、江戸時代に陣屋町として整備され稲扱き千歯と木綿の商業で栄えた歴史的な町並みで、文化財として価値が高いと文化庁が選定した9ヘクタールほどの広さの地区です。
古くからの醤油屋、酒屋や地元の民芸品を扱うお店やギャラリーなどがたくさん並び、県内外の人が集まる観光名所として親しまれています。
町並みだけではなく、そこに暮らす人々が長い時間をかけて育んできた伝統も、今なおそこに息づいているのです。
今回は、「白壁土蔵群」の保存や修復を行っている倉吉市教育委員会事務局 文化財課課長補佐 根鈴 智津子(ねれい-ちづこ)氏に、鳥取県中部地震の被害や復原についてお話を伺いました。
前編は鳥取県中部地震による「白壁土蔵群」の被害と復原について、後編は「白壁土蔵群」から私たちが学ぶ防災についてご紹介いたします。
鳥取県中部地震による「白壁土蔵群」の被害

進入禁止のエリアを特別に見せていただいた。横から見ると漆喰壁が浮いてしまっているのが分かる。 地区の様々なエリアで被害の爪痕をみることができる。
外見上は漆喰壁や内壁が落ちている状態で、余震などによる崩落の恐れがあるので立ち入り禁止にしている施設もあります。
全国のヘリテージマネージャー(歴史的な建造物の保全や活用に係る専門家のこと)ボランティア64名による調査の上、保存地区内の保存すべき建物345棟のうち207棟、全体の60%が被害を受けていることが分かっています。
2016年12月からの復原にあたり、倉吉市文化財課では、ただ古い町並みを再現するのではなく『防災に強い町並み』『古くても住み続けることができる構造的に強い町づくり』をモットーに、質の高い復原を目指しています。
『防災に強い町並み』とは、具体的にはどのような復原を行うのか。
古い家は「建(タチ)」を健全にする必要があります。屋根瓦が落ちたからと言って単に瓦を葺く(ふく)のではなく、柱や梁などの構造の補強=「建直し(タチ-ナオシ)」をする必要があるのです。
また、今回の鳥取県中部地震に遭った家屋は棟(屋根の一番高い部分)がずれている家が多くみられます。
そして古い家屋は土を使って屋根を葺き固めているので、その土にヒビが入っている状態の可能性が高く、次の余震で崩落することも想定されます。
それらの問題を解消するために屋根瓦の1400年の伝統を守りつつ、棟を補強する金具やステンレス釘を使用した工法で設置する『強力棟』や耐震機能を備えた『防災屋根瓦』の使用も予定しています。

左は平瓦の裏面、右は軒瓦の軒先側。どちらも、修理の際、使用できるよう文化財課でストックしているもの。 昔の屋根瓦と防災屋根瓦。防災屋根瓦にはビスで止める穴や瓦同士をひっかける構造の溝がついている。また、昔の軒瓦は唐草文で飾られ、家紋が入るものも。
もちろん『防災瓦』に替えることは「伝統的建造物群」のみらなず、古い家屋全体に対しても同じ事が言えるのです。
後編へ続く
※方言を使用している箇所は(カタカナ)で読み方を表記しています。
まとめ
・震源6弱を観測した鳥取県中部地震で、伝統的建造物群保存地区に指定されている「倉吉市 白壁土蔵群」地区の約60%の被害を受けた。
・伝統的建造物群保存地区の町並みを修復することは『古くても住み続けることができる構造的に強い町』をつくる「復原」となる
・古い家の瓦は大きな地震、その後の余震で崩落する危険性が高い。『防災瓦』の使用が推奨される。
倉敷市教育委員会事務局文化財課
3.11東日本大震災 特集一覧はコチラ
参考URL
倉吉市打吹玉川伝統的建造物群保存地区 | 山陰・鳥取県「倉吉観光情報」
伝統的建造物群保存地区 | 文化庁
屋根工事のプロ集団【全日本瓦工事業連盟】
全国伝統的建造物群保存地区協議会 (伝建協)