明日、2016年8月11日は今年から制定された祝日「山の日」です。
これは「山に親しむ機会を得る事で山の恩恵に感謝しましょう」という趣旨で定められた祝日です。
2009年ごろから「山ガール」という言葉が流行しはじめ、近年は登山がレジャーとしてぐっと身近なものになりました。
夏休みに登山に出掛けられる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、普段から登山などで山に入る機会のない人が唐突に大きな山に登ろうとしたら、準備不足で遭難事故・山岳事故を引き起こしてしまうリスクがあります。
登山レジャーはしっかりとした準備が必要不可欠です。
実際、昨年(平成27年)は2,508件もの遭難事故・山岳事故が起こっており、増加傾向にあるため警察庁が登山者に十分注意するように呼び掛けています。
では登山にはどのような危険があって、どのような対策をすればいいのでしょうか?
夏山で起こった山岳事故「トムラウシ山遭難事故」を調べてみました。
2回に分けて詳しくお伝えします。
後編:「山の日」安全に登山を楽しむために……トムラウシ山遭難事故から学ぶ山岳事故予防対策・2
夏の山でも寒さの危険
トムラウシ山遭難事故に学ぶ、山の怖さ
2009年7月16日、北海道トムラウシ山の登山ツアーでガイド3名を含む18名のうち8名もの方が亡くなる山岳事故が発生しました。
このうち山に慣れていた登山ガイドも1名亡くなっています。
同日、単独で登山していた方も付近で1名亡くなっており、この日だけで夏のトムラウシ山では9名もの方が亡くなられました。
その死因はいずれも夏にも関わらず「低体温症」での死亡……いわゆる「凍死」でした。
なぜ夏山で多くの方が凍死する事態が起こってしまったのでしょうか?
日程と行動を時系列で追ってみましょう。
◆登山初日・7月14日
天気予報で悪天候になる事が想定される中、7月14日にトムラウシ山を経由してトムラウシ温泉を目指してツアー一行は登山をはじめました。
初日は予定通り12km歩いて、白雲岳の避難小屋に宿泊しました。
その時には翌日から雨が降る事が分かっていたものの、ガイド3名は協議の上で登山を続ける判断をしました。
初日の道中で強風や雨の時間帯もあったため、この時点で体調が悪くなった女性が1名いたものの、引き続き登山に参加されました。
◆2日目・7月15日
15日は朝から大雨となり、雨具を着て16km先のヒサゴ沼にある避難小屋まで10時間かけて移動しています。
これは悪天候の影響で、予定よりもかなり遅いペースでした。
疲労困憊の状態でなんとか小屋には着いたものの、この小屋は雨漏りが酷かったために濡れた寝袋で休むしか出来ない状況でした。
◆3日目・事故発生~救助活動・7月16日~17日
16日も雨が続いた上に台風並みの強い風も吹いていました。
天気予報でトムラウシ山がある十勝地方が午後から晴れると聞いたガイドは午前5時30分頃に小屋からの出発を決断しました。
午前8時にはロックガーデンと言われる岩場に到達しましたが、強烈な風で転倒する人が出る中、それでも強引に先に進んでいきました。
しかし天候はさらに悪化し、体調が悪くなる人が続出しました。
そんな中でさらに悪いことに、雨で増水した沼で登山道が川のようになっている場所を渡らなくてはならなくなりました。
水深は深いところでは膝ぐらいまであったといいます。
雨に加えて膝まで冷たい水に入るという体力を消耗する悪い出来事が重なり、加えて強風により濡れた個所からどんどん体温が奪われていきました。
午前10時には寒さから起こる低体温症により、ついに自力では歩けなくなる人が出始めました。
最初は沼地を越えた場所で一人の女性客が歩けなくなったのでガイドが懸命に介抱したのですが、回復させることができませんでした。
それまでまったく兆候がなかったにもかかわらず、突然動けなくなったそうです。
この介抱の間、ほかのツアー客は強風の中で濡れた状態でしばらくその場で待たされていました。
その後、ガイドは分担して他のツアー客を冷たい風が当たらない場所へ移動させようとしましたが、この移動の間に次々と歩けない人が出始めました。
しかも、ガイドが3人とも既に低体温症になってしまっていた疑いが強く、言動が朦朧としていました。
先を急ぐガイドについていく人、動けなくなる人、介抱する人……次第にツアー一行はバラバラになっていきました。
15時頃には低体温症の影響で3人いたガイドのうち2人までもが全く歩けない状態に陥っていました。
ここでたまたまガイドを介抱していた女性客の携帯電話に家族から連絡があった事がきっかけで、ようやく警察に最初の通報が入りました。
既に最初に倒れた女性客を介抱しはじめてから、約5時間も経過していました。
ガイドの1人は、警察と直接連絡をして20時の時点では5人で緊急野営(ビバーク)という岩陰などの雨風が凌げる場所に避難している事を知らせていました。
しかし、彼とも23時頃から連絡が繋がらなくなったため、午後23時45分に正式に自衛隊へと救助要請がありました。
この直後、23時55分にツアー客のうち2人が自力下山して保護されました。
保護された登山客より、遭難者がバラバラになっているという情報を確認し、翌17日の午前4時より自衛隊による本格的な捜索が開始されます。
そこで彼らが見つけたのは点々と分散して倒れ、体が極端に冷えきって動けなくなっていたツアー参加者達の姿でした。
この登山ツアーに参加していた3名のガイドを含む18名のうち、自力で下山できたのはたったの5名でした。
自衛隊は捜索を開始した午前4時から3時間以内に遭難した残り13名をヘリなどで発見・救助活動をしましたが、うち8名の方々が亡くなってしまいました。
また、単独で登山をされていて付近で亡くなっていた方も1名発見されました。
亡くなれた方々のご冥福を心よりお祈りいたします。
明日はこの「トムラウシ山遭難事故」を引き起こした原因から、夏山登山の遭難事故・山岳事故予防法を探ります。
まとめ
- 夏山で起こった山岳事故「トムラウシ山遭難事故」ではツアー客7名、ツアーガイド1名、単独登山者1名の合計9名の方々が亡くなった
- 死因は夏山にもかかわらず、いずれも「低体温症」での死亡……いわゆる「凍死」
参考リンク
- 警察庁 平成27年における山岳遭難の概況
- トムラウシ山遭難事故調査報告書 トムラウシ山遭難事故調査特別委員会