この連載「やすらぎ家族」では、「NPO法人JPSSO」協力のもと現役自衛隊員とそのご家族に取材し、自衛隊の仕事に対する想いや家族と一緒に過ごす時間などについてうかがってまいります。
国防を担う自衛隊員達をすこしでも身近に感じていただければ幸いです。
今回は京都府にある海上自衛隊の舞鶴基地で、現役自衛隊員同士のご夫婦にお話をうかがいました。
「自分が家事をしてみて、妻の苦労がよくわかりました」
海上自衛隊 舞鶴警備隊
日高 愛幸 2等海曹
海上自衛隊 舞鶴地方隊 多用途支援艦
日高 麻希 2等海曹
一方が艦艇勤務の時、
もう一方は地上勤務というルール
結婚して10年。
夫婦ともども海上自衛官、小学生の長女と幼稚園の長男という4人家族。
愛幸さんと麻希さんは、砲術、水雷、掃海、航海、通信など、艦艇術科に必要な教育を行う第1術科学校の海士航海課程の学生として出会いました。
その後付き合い始めても、最初は特に結婚を意識していなかったといいます。
というのも、学校での教育が終わりそれぞれ部隊に配属されてからは、愛幸さんは舞鶴、麻希さんは横須賀と、遠距離恋愛になったからです。
けれど何かあると麻希さんが横須賀から来てくれたり、おいしい食事を作ってくれたりしているうちに、結婚は「ご飯が絶対条件」というほど料理が苦手な愛幸さんは完全に胃袋をつかまれたのでした。
麻希さんは任期満了の3年で退職し、愛幸さんのいる舞鶴に行くつもりでした。
ところが無理だと思っていた舞鶴への転属が叶い、引き続きWAVE(海上自衛隊女性自衛官)として働きながらの新婚生活がスタート。
さらに舞鶴地方隊で陸上勤務をしていた麻希さんは、任期制隊員の海士から海曹課程へ進む機会も得ます。
しかしそのためには、初任海曹課程教育を受けるため、しばらく舞鶴を離れて江田島第1術科学校に行かなければなりません。
愛幸さんは護衛艦「ひゅうが」をはじめこれまでずっと艦艇勤務でしたが、ここでいったん艦を降りることにして陸上勤務となります。
2人の実家はいずれも遠く、夫婦そろって出港といった際に頼ることもできなかったからです。
さらに麻希さんは現在、多用途支援艦「ひうち」勤務。
愛幸さんの陸上勤務は続いています。
「結婚する時は『子どもを産んでも艦に乗る』という時代ではなかったので、こういう状況になることは考えていませんでした。今は母になっても艦艇勤務できる制度が整っているので、ありがたいですね。とはいえ、夫もいずれは船に戻りたいはずなので、その時は私が再び陸上勤務となり、役割交代ということになると思います」
妻の手料理が目標の夫
仕事では夫がライバルの妻
台風で学校が休校になった、子どもが急に熱を出した。
そんな突発的なアクシデントは珍しくありません。
そのつど夫婦で予定をやりくりするのは苦労もありますが、それでも愛幸さんは麻希さんが海曹になることに賛成したし、苦手な料理も頑張っています。
「艦艇勤務の時は子どもたちとなかなか会えなかったので、そういう面では今は幸せですね。料理だけはまったく上達せず、子どもたちにも迷惑をかけています(笑)。夏休みは毎日学童保育に通ったので、キャラ弁も作りましたよ。自分が家事をしてみて、妻の苦労がよくわかりました」
家に帰ると「おかえり」と迎えてくれ、おいしいご飯を用意してくれている。
愛幸さんが想像していたそんな結婚生活と現状は異なりますが、それでも「負けん気と根性で頑張っている」妻を応援したい気持ちは大きいし、日々成長する子どもたちを見ていると、結婚してよかったと心から思います。
そして麻希さんにとって愛幸さんは、仕事に協力してくれる心強い伴侶であると同時に、艦艇勤務の先輩でもあります。
「私は『ひうち』に乗ってまだ10カ月、主人は10年以上の艦艇勤務。経験も実績もまだまだ追いつきません。家族でありライバルでもあります」
夫婦円満の秘訣は晩酌だそう。
休みの前夜、子どもたちが眠ってからつまみを作り、たわいもない話をしながら過ごすひとときが楽しみです。
愛幸さんからは若い独身隊員に対して「自衛官は定年が早いので、早く結婚して子どもも早いうちに作ったほうがいいと思います」というアドバイスももらいました。
(文:渡邉 陽子/取材協力:NPO法人JPSSO)